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「聞いてるこっちまで追い込まれるからやめろって。第一、用ってなんだよ?」
このままでは一向に話は脱線するばかりだ。
仕方ないので俺の方から切り出してみれば、双子の片割れが「そうだよ」と声を上げた。
「なんだよもクソもないよね、だってお宅の豚眼鏡が……もごっ!」
そう、何かを言おうとした双子の口を塞いだのは慌てた政岡零児だった。
「な、なななんでもねえよ!つーかお前には関係ねえし!」
「ま、そうだな。んじゃ、俺も出掛けるから」
俺に用がないならこれ以上留まる必要はないわけだ。
下手に絡まれる前にその場を立ち去ろうと踵を返したときだった。
「ちょっ、待てって!」
いきなり、腕を掴まれる。
政岡の行動に驚き、反射でその手を振り払いそうになったが、相変わらずその力は強くて。
仕方なく立ち止まった俺は、「なんだよ」と政岡に向き直った。
「……ぉ……」
「お?」
「お茶でも、飲みに行きませんか……」
その語尾はようやく聞き取れるくらいの声量で。
耳まで真っ赤にした政岡の申し出にに、身構えていた俺は呆気にとられる。
そのまま静止する俺達のすぐ傍、顔を見合わせた双子が「会長やるねえ」と笑う声がやけに響いた。
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