馬鹿ばっか


 48

というわけで、夜。
問題はここからだった。

五条の部屋で監視すると決めた俺はベッドの前で右往左往していた。
シャワーは浴びた。
途中カメラを手にした五条が乱入してくるというハプニングはあったものの、まあ、風呂くらいならということで今まで生きてきた中で一番の早さで体を洗い風呂を飛び出してきたので一応無事だ。
いちいち無事か否かを確認しなければならない生活なんて俺は嫌だが、まあ、仕方ない。
が、やはり、一難去っても二難三難あるわけで。


「……」


どうしよう。眠たいけど、寝てもいいのだろうか。
五条はあの怪しげな部屋で眠ると言っていたが、流石に言われるがまま呑気に寝るのはちょっと気が引ける。というかなんのためにここにいるのかがわからない。

五条は今、まだ風呂に入っているはずだ。
どれくらいで上がるかは分からないが、今、俺は自由ということになる。
ごくりと小さく固唾を飲み、俺は五条の大切なものがあるらしい部屋の扉を見た。
相変わらず過剰すぎるくらいなアナログ式セキリュティシステムは一種の物々しさを感じさせる。

なんとかして部屋を覗くことは出来ないだろうか。
五条の手前、敢えて触れないようにはしていたが五条の弱みだとわかればやはり掴まない他無い。
けれど……。

ドアノブを掴み、何度か上下して動かして見るが鍵が掛かっているようでビクともしない。
おまけに、この南京錠だ。絡みつく鎖が邪魔で正直思うようにドアノブすら動かない。
こうなったら、五条がこの部屋に入る時、この鎖を外したときが狙い目だな。
いや、ちょっと待てよ。
もし五条がこの施錠を解いて部屋に入る間は外からのアナログ式セキリュティシステムを施すことが出来ないのではないのか。
だとしたら無防備過ぎるのではないか。
計算ミス、ということはないとは思うけど、この過剰施錠には他に理由があるのだろうか。そう勘ぐってしまわずにはいられない。

うーん、わけがわからん。もういい。寝よ。
そう、扉から離れたとき。
シャワールームの方から扉が開く音が聞こえた。
タイムリミットだ。
何事もなかったかのようにベッドの上に戻った俺は、平常を装うため肌身離さず持ち歩いていた携帯電話を取り出した。
そしてそのままやり過ごそうとしたとき、ふと、数件の着信とメールを受信していることに気付いた。

殆どが登録した覚えのないアドレスで、疑問に思いながらもその中に岩片の名前を見付け、俺はメールを開く。

『今すぐ戻って来い』

たった一文。
あまりにも素っ気無い文面だが、そんなことよりも俺はその内容に眉を寄せた。
俺に任せとくだとか、散々放任主義決め込んでいたくせになんだよいきなり。
まず、それが先に頭に来る。
その反面、岩片からの命令に放られているわけではないのだと胸が熱くなるのも事実で。


「……」


岩片からの命令は絶対だけど、今現在俺の主導権を握っているのは五条だ。
『五条はどうするんだ』と簡潔にメールを返信しようとしたとき、扉が開き五条が戻ってきた。
咄嗟に、俺は携帯電話を仕舞う。
別に内容を見られるわけでもないのだから隠す必要はなかったのだが、なぜだろうか。
内心、俺は思っている以上に戸惑っていたのかもしれない。


「尾張って風呂はいんの早いのな〜、あんまいい出汁取れてなかったぞ」


味噌汁でも作る気かよ、とずれた突っ込みをしつつ、俺は結局送信せず仕舞いのメールのことを思った。
まあいい、後から返信しよう。
その怠慢のせいで、痛い目に遭うとも知らず。

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