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他人の部屋で迎える目覚めというのは中々新鮮だ。
ベッドの上、寝返りを打った俺は薄く目を開いた。
「ん……眩し…………く……ない?」
通常なら朝日が射し込んでるはずの時間帯なのに薄暗いままの部屋にハッとし、飛び起きる。
部屋の窓に目を向ければ、なんと真っ赤に染まった空が映し出されているではないか。
どうみても夕方だ。
「やっべー……遅刻……」
しかももう授業終わってんじゃねえのってレベルの空の染まり具合に血の気が引いていく。
五条の見張りになって丸一日サボりなんて、岩片に何言われるかわからない。
あいつのことだ、どうせ下世話なことを考えてるに違いない。
「おーい五条!なんで起こしてくれなかったんだよ!」
そう、部屋の持ち主を大声で呼ぶが返事は返ってこない。
それどころか人の気配すら感じない部屋の中、まさかと青褪めた俺は慌てて部屋の中を探し回った。
しかしあの変態眼鏡はいない。
その代わり、テーブルの上に五条からの置き手紙を見付けた。
『用事が出来たから出掛けてくる』
「あ、あの野朗……!」
紙を握る手に力が籠もり、ぐしゃりと音を立て置き手紙が潰れる。
見張っておけとか言っていたくせに。
せめて起こすなりしてくれたらいいのにどういうつもりなんだ、あいつは。
頭にきたが、自分を落ち着かせる。
置き手紙にはまだ続きがあるようだった。
もしかしたら連絡先が書かれてるのかもしれない。
そう思って慌てて握り潰れた置き手紙を広げた。
『P.S.お前の寝顔高く売れたわ。ありがとう。』
「あ、あの野朗……!!!」
ぐしゃぁと握り潰した置き手紙を壁に投げ付ける。
本人がいたら口の中に捻じ込みたいところだ。
つーか売れたわって事後報告じゃねえかふざけんな。
連続でやってくるダメージに挫けそうになるが、昨日、なんでもいいと言ったのは俺か。
でも寝顔売られるってなんだよ。そして誰だよ買ったやつは。
手紙には出掛けてくると書かれているが、このままどっかに行かれた場合手の出しようがないので現時点で逃げられたも同然だ。
もし本当にこのまま逃げられたとしたら岩片に何言われるかわからない。
そこまで考えて、俺は岩片からのメールを思い出した。
あの妙な警告メール。
結局返信せずじまいになってしまったし、取り敢えず弁解ついでに返信しておくか。
そう、枕元に置いたままになってる携帯を手に取る。
電源が切れてた。
「……」
仕方ない、一旦部屋に戻るか。
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