馬鹿ばっか


 31

「ちょっと、待っ、なんで」

「あ?なんで知ってるかって?なんでだろ、なんでかなあ?不思議なこともあるもんだなぁ」


狼狽える俺に対し、わざとらしい口調で答える五条はへらりと笑う。


「っていうのは冗談で、ただ単に聞いてるだけ」


「あと、勘」そう、たしかに奴の唇が動いた。
全身から血の気が引くのがわかった。
自分では、完璧にやれていたと思っていた。誤魔化すことができていると思っていた。
しかし、それは過信だったようだ。
もしかしたら俺の思っている以上に五条の洞察力、メディアリテラシーが優れているのかも知れない。
どちらにせよ、五条に読まれていたことは事実に変わりなくて。
その事実は、俺のメンタル面に大打撃を食らわせる。


「あれ?なに?まじで知らなかったわけ?わざわざこんな事するくらいだから俺のことくらい調べてると思ったんだけど、ははっ!そーかそーか、お前、そんなに俺とヤリたかったのか!いやー罪づくりって怖い!」

「そうだな、犯罪者予備軍が」


そのときだった。
五条の高笑いに紛れて、聞き覚えのある、低く、不気味なまでに冷え切った声が聞こえてくる。
そして次の瞬間、勢い良く傍の扉が開いた。


「っ、お前」


そこに立つ二人の姿に、思わず俺は青ざめる。
それは五条も一緒だったが、きっと蒼白の理由は違うだろう。

そんな俺達を見下ろす五十嵐。
その肩に手を回した岩片は笑った。
服装は、いつものもじゃもじゃ鬘とぐるぐる眼鏡に戻っている。
いや、問題はそこではない。

なんで二人とも、イヤホンつけてるんだ。
嫌な予感が胸をよぎる。
そして、残念なことに俺の予感はよく当たる。

まさかこいつら、ずっと聞いていたのか。

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