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「っまじで」
無意識に声が震えた。
腕が使えないというハンデがある今、マウントポジションはまずい。
なんとか這いずり逃げようとするが、重い。
くそ、図体ばかりでかいモヤシのくせに。
「ちょ、タンマタンマタンマっ」
背中に回された手が、上半身を抱き寄せる。
剥き出しになった首筋に顔を埋める五条。
浮き出た血管になにかぬるりとした感触が触れ、それが舌だということはすぐに理解できた。
理解できたが、どうすることもできない。
文字通り、でも足も出ないというやつか。
「んっ、ゃめ」
前髪が皮膚に掠り、そのこそばゆさに身動ぎをする。
しかし、やつは俺から離れるどころか更に首に触れてきて。
かぷり、と首筋に歯を突き立てられれば、全身の筋肉がビクリと痙攣する。
全身から汗が吹き出す。
「っ、てめぇ……っ」
今にも首筋を噛み千切られるんではないかという不安感に、高揚した心臓はバクバクと煩く騒ぎ出す。
昔、なんかで見た映画で、人間の首を犬が食い千切って血が沢山出ていたのを思い出し、呼吸が乱れ始めた。
トラウマ、というには細やかだろうが、昔から首という箇所には触れないようにしていた。
それが今、他人に咥えられている。
「やめ、ろってば、おいっ」
ちゅ、ちゅ、と音を立て皮膚を吸われた。
歯は立てられたままで、下手に動くことは出来なかった。
皮膚を舐められ、血管を辿るように舌でなぞられる度に思考回路が大きく掻き乱され、全身が熱くなる。
「っ、も、そこ、やめ……っ」
味わうよう、丹念に首筋を舐められでろでろに濡れた首筋は至るところずくずくと疼き始め、顔が熱くなった。
抵抗しないとやばいと思っていたけど、相手に急所を晒していると思ったら思うがまま動けず。
こんな事で狼狽える自分自身に対し更に狼狽える俺に、うやく首筋から顔を離した五条は笑う。
「あはっ。なに、尾張って首性感帯なわけ?」
「すっげぇ、萌えるんですけど」はぁ、と熱っぽい吐息を吐き出す五条の頬も赤く、こちらを見下ろすその目にぞくりと背筋が震えた。
性感帯という単語に更に動悸が乱れる。
そして、俺の股ぐらに立つ五条が腰を動かした時、俺の下腹部に嫌な感触が当たる。
それがなんなのかすぐにわかった俺は益々青褪めた。
なんか、さっきより大きくなってないか。
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