馬鹿ばっか


 21

「っ、は……ぁ……っ」


舌で抉じ開けられた口から息が漏れ、変な汗が出てきた。
唇が離れ、俺はそのまま岩片の胸ぐらを掴み相手の耳元に口を寄せる。


「なに、企んでいるんだよ……っ」


そう、やつにだけわかるくらいの大きさで呟けば、岩片の目元にかかったパステルカラーの黄髪が僅かに揺れる。


「言っただろ?ハジメ。お前には痛い目を見てもらうって」


動揺するわけでもなく、くすくすと笑う岩片は先ほどと変わらない調子で続ける。
言うつもりはないということだろうか。
澄んだ赤い瞳を睨み付け、舌打ちした俺は服の中をまさぐるやつな手を引き抜こうとした。
しかし、すぐに手首をとられる。
頭上に片腕を押し付けられ、服の中をまさぐっていた岩片の手にシャツをたくし上げられれば露出させられた上半身に嫌な寒気が走った。


「相変わらずいい身体してんな、お前。全裸で放置してずっと眺めていたいくらいだ」


気持ち悪い褒め方をする岩片に鳥肌が立つのがわかった。
冗談に聞こえない。
薄い筋肉の凹凸を指の腹でそっと撫でられ、全身が緊張する。


「痛い目見せたいんなら、さっさとボコるなりしたらいいだろ。なにがしたいんだよ、お前っ」


あまりにも気色の悪い感触に堪えきれず声を張り上げれば、僅かにきょとんとした岩片だったがすぐに笑顔に戻る。
矢先、胸板を触れていた指先にぎゅっと乳首をつねられ堪らず「いっ」と声を漏らした俺。


「お前が好きなものも嫌いなものも全部わかってんだよ、こっちは」


「なにをしたらハジメにとって苦痛なのかも、全部な」細くなる赤眼が俺をとらえ、三日月のように唇を吊り上げ岩片は笑う。
ぐに、と引っ張った状態のまま突起を潰され、俺の意思とは反対に上半身がびくりと跳ねた。
全身から血の気が引く。
いや、騙されるな。
どうせいつものやつお得意の口車だ。
そう言い聞かせるが、不安が拭えない。

その矢先だった。
コンコンと小気味よく玄関の扉がノックされる。


『俺だ、今いいか』


扉越しに聞こえた久し振りの静かな声。
生徒会書記、五十嵐彩乃。

今日は次から次へと忙しすぎる。
そううんざりする気分とは裏腹にかなりいいタイミングで来てくれたやつが天使かなにかに見えた。
仏頂面の男前天使。……なんかちょっと不気味だな。
思いながら上から覆い被さってくる岩片を押し退けようとすれば、なにを思ったのか上半身を起こした岩片はそのまま俺の腕を掴み上げるようにソファーから立ち上がった。


「っちょ、うわ、おいっ」


言い終わらない内に乱暴にソファーから引き摺り落とされ、咄嗟に受け身を取る。
が、構わず岩片はそのまま床の上の俺を引っ張り歩き出した。
向かう先には、先程五条祭を押し込んだ空き部屋へと続くあの扉。

どういうつもりだ。こいつ。
そう青ざめ、逃げようとする隙もなく鍵を外したその扉の奥へと放り込まれた。
顔面着地。

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