22
「ってめ……ッ」
痛む顔面を押さえ、慌てて顔を上げ背後の岩片を振り返ったとき。
バタンと大きな音を立て扉を閉められる。
それは数秒も経たない内に起きた出来事だった。
「……っ」
光が遮断され、薄暗い室内に閉じ込められてしまった俺は舌打ちをし、取り敢えずバランスを立て直そうと立ち上がったときだった。
ぎゅっと、足の下に違和感。
そこには肉のようななにかがあった。
「い゙っ」
何だろうか、と思いながら踵に力を入れた瞬間足元から悲痛な呻き声が聞こえ、ぎょっとした俺は慌てて足を退けた。
「……五条?」
そして、そう恐る恐る薄ぼんやりとした部屋の中で蠢く足元の影に呼び掛ければ、影は「あい」とちからなく返事をする。
「お前、なにやってんだ。こんなところで」
「なにって、それを俺に聞くかよ」
ああ、そうだった。
いきなりの出来事に頭が混乱していたらしい。
冷静な五条の突っ込みに数十分前、自分たちが五条をこの部屋に閉じ込めたことを思い出す。
そして、それと同時に先ほど隣のリビングで岩片に襲われてたことを思いだし、背筋からうっすらと嫌な汗が滲んだ。
まだ緊張が抜けていないらしい。
「……なあ、お前、もしかしてさっきの」
聞こえてたか?
そう尋ねようとしたときだった。
扉の外から玄関が開く音が聞こえてくる。
『……なんだ、お前一人か』
『俺じゃ不満?あいつより満足させれるけど』
『風紀のやつらと揉めたんだってな、能義たちに聞いた』
『前戯もせず慣らさず挿入する男は嫌われるぞ』
『突っ込まないからな』
『放置プレイ?淡白な男の人ってイヤ!』
『尾張元を連れてこい。話が進まない』
『なんだよ、冗談だろ。冗談』
扉越しに聞こえてくる五十嵐と岩片の親しげにも聞こえない会話。
扉の隙間から射し込む照明の明かりを浴びるようにわずかな間から向こう側を覗き込めば、部屋のごく一部が見えた。
そこに岩片たちの姿はないが、岩片は五十嵐を招き入れたに違いないようだ。
くそ、どういうつもりなんだ。あの野郎。
扉に手を突き、更に顔を近付けたとき、ふいに指先にぬちゃりとなにかが触れる。
「…………?」
まだ生暖かい、ねっとりと指先に絡み付く嫌な感触のそれに目を向けたときだった。
これって、まさか。
手を広げればどろりと指先から付け根へと伝い落ちるそれがなんなのか気付き、全身の血の気が引いた矢先、いきなり背後から伸びてきた手に口許を塞がれる。
←back