馬鹿ばっか


 20

「っ、やめろって、このヤリチン野郎っ!」


そして、岩片の手首を思いっきり締め上げる。
力任せに振り払い、そのままやつの下から這い出ようとしたとき、脇腹を捕まえられ、背中を座面に押し付けられた。
しぶとい。
口の中で舌打ちすれば、覆い被さってくるやつの唇が耳朶に優しく触れる。


「本気で嫌がってんじゃねえよ、バカ」


囁かれる声。
生暖かい吐息が吹きかかる。
わけがわからずやつの顔を見たとき、にゅるりと熱く湿った舌が耳朶をなぞった。


「っちょ、待てって、おいっ!意味が、わからな……」


そう言いかけたときだった。
くちゅくちゅと舌に絡み付いた唾液が皮膚を濡らす音に紛れ、どこからかピピッと小さな機械音が聞こえた。

咄嗟に、室内に視線を巡らせる。
そして、室内に取り付けられた空き部屋に続くその扉に目を向けようとしたとき、顎を掴まれ無理矢理顔を上げられた。
気付いたときには俺はやつに唇を貪られていた。


「っ、ふ……っ、んんぅ……っ」


紅茶独特の薫りが口内いっぱいに広がり、頭が痛くなった。
眉をひそめ、やつから顔を逸らそうとするが顎を固定する手は離れない。
なんで、俺はやつにキスをされなければならないのだろうか。
それも問題なのだが、俺の頭の中は先ほど聞こえてきた機械音のことで頭がぐるぐる回っていた。

そして、立て続けに起きた重大なことに気を取られていた俺ははたまた重大なことに気付く。

先ほど空き部屋に押し込んでいた五条祭。
あいつのこと、忘れてた。

そして、以前聞いたやつの盗撮盗聴癖の噂。それと先ほどの機械音が頭の中で結び付く。

まさか、こいつ。
唇を舐めてくる目の前の岩片を睨み、俺は目を見開いた。


「口、開けよ」


吐息混じりの色っぽい声。
その目は据わっていて、顎を掴む指先は離れない。

どういうつもりかわからないが、こいつがまたなにかを企んでいるのはわかった。
そして、今俺がなにをすべきなのかを。

背筋が薄ら寒くなるのを感じながらおずおずと唇を開けば、愉快そうに口許を歪めた岩片はそのまま人の口内へと舌を捩じ込んできた。

なんで俺はいつもこんな役回りなんだろうか。
思いながら、雪崩れ込むように侵入してくる濡れた舌に泣きそうになりながら受け入れる。

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