18
岩片の馬鹿みたいに分厚いレンズの眼鏡がずれ落ち、その下の特徴的な目を見たとき、俺の意識は一瞬過去へと飛んだ。
過去といってもそれほど昔ではない。
前の学園にいたときの、岩片に出会った頃の記憶。
桜の花弁は散り、雨と太陽でじめじめと蒸した空気が鬱陶しい梅雨の季節。
雨上がりの晴天下で、丁度殴り合いしたばかりの俺はもじゃもじゃした奇妙なみょうちくりんに出会った。
運動直後でアドレナリンが放出していたせいだろうか、普段なら話し掛けないような人種を前に俺はやつに話し掛けていた。
「それ、自前?」となんでもないように佇むまりも頭に尋ねれば、こちらを振り返ったやつはにやりと口許に嫌な笑みを浮かべる。
「そ、自前」
どこか皮肉を含んだような声。
岩片凪沙は当たり前のように答え、俺も当たり前のようにそれを信じていた。
しかし、どうやら俺は騙されていたようだ。
「ってめ……おいっ!」
押し倒された俺は声を上げ、覆い被さってくるやつの顔面を手で押さえ付ける。
そして強引に引き剥がそうとしたとき、俺はやつの髪を掴んだ。
否、髪だったものを。
ずるり。
そんな効果音とともに手の中の岩片のもっさい髪がもげた。
そりゃあ、もう、綺麗に。
岩片の頭部から剥がれたそれに、『あれ、そんなに力入れてないのに』と青ざめた俺は岩片に目を向け、そしてまた固まる。
視界に入ったのは、色素が薄れカスタードクリームを連想させるような淡い黄色。
「えっ、だ」
目を見開き、俺はソファーの背凭れに背中を引きずるよう後ずさった。
「……誰、お前」
うわ、やべ。とでも言いたそうに淡い黄髪を手で隠す岩片凪沙だったそいつに、目を見開いた俺は唖然と呟いた。
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