side:芳川
まさか、自分が病院に入院する日が来るなんて思ってもいなかった。
怪我をしても傷薬塗って絆創膏を貼っておけば勝手に治っていたし、風邪だって薬を飲めばその日の内には熱が引いた。
そう考えてみると、こうして病室のベッドで夜を過ごすことになったのは初めてかもしれない。
そして、こんな自分の元に見舞い客が来ることも、意外だった。
『入院生活はどうだ?』
『なんの用だ』
『そんな言い方はないだろ。暇だろうと思って来たんだよ、ほら、土産』
来なくていいと言っておいたのに、五味は放課後になると毎日病院へやってくる。
そんなものは建前で、阿賀松たちの動向を探っているのだとすぐ気付いたが追い返しても暇なことには変わりない。
『明後日でようやく退院だろ?長かったな』
『打ったのが頭だからな、大丈夫だと言っても周りが喧しくてな』
『そりゃそうだろ、血、沢山出たんだぞ。寧ろその日の内に帰れると思ってるお前のがすげえぞ』
『……そうか』
脳が傷付いているかもしれないからせめて一週間は安静にしなさい。そう医師は言った。
学園には入院するということで休学届けを出したが、正直こうして一人のうのうと病院のベッドにいるということだけで気が気でなかった。
自分がいなくなったあとの学園のことを考えると、特に。
齋藤君は、阿賀松がまだ学園に残っていると言った。
何かにしがみつくことしかない能がないあの男だ、その可能性もゼロというわけではない。
そう考えると……頭の奥がズキズキと痛み始めるのだ。
『芳川、大丈夫か?待ってろ、誰か……看護師を呼んでくる』
『……不要だ』
『だけど』
『ただの頭痛だ。……昔からだ、すぐに落ち着く』
『……』
吐き気がないだけましだろう。
五味にはああ言ったが、頭痛は収まることはない。ずっと、常に頭痛はしていた。脳味噌を揺さぶるような鈍痛が常時俺の頭を支配する。
そして、それはいつの間にかに俺の中で当たり前となっていた。
『そんなことより、お前の方はどうだ?……何かあったか』
『お前は本当にそのことばかりだな』
『生徒会長が自分の通う学園のことを心配して何か問題でもあるのか?』
『俺はなぁ、今回お前が入院することになって……正直ホッとしたんだよ』
『煩い奴がいなくなるからか?』
『そうじゃない。……最近のお前はおかしかった。前々から自分を追い込むやつだとは思っていたがな』
『……』
『だから、学園から離れてゆっくりしたらお前も少しは気分転換になるんじゃねえかと思ったんだが……』
『まさか、お前が鉄材を落とすようにけしかけたのか?』
『な……っ馬鹿なことを言うな!本気で言ってんのかよ』
『……いや、あまりにも平和ボケしたことを言うからな、一種のミスリードかと思ってな』
『あのなぁ、お前は本当人の善意をなんだと思ってんだよ……』
『俺の性格は知ってるだろう、五味』
『まあな、だからこそ余計、変わらないお前に呆れてんだよ。……前までは、少しは丸くなったと思ったんだがな』
五味は、お人好しだ。昔からだ。
面倒ごとは嫌いだというくせに、俺のすることなすことに口を挟んでくるのだ。
『他にももっとましなやり方があるだろう』だとか『それはおかしいだろ』だとか。
その度に口喧嘩になっては、……当時同じクラスメートだった仁科が宥めてきた。
五味とはつくづく話が合わないし趣味も合わないやつだったが、それでも、五味は俺を全否定するわけではない。口を挟んで、それに俺が言い返して、それを繰り返している内に折衷案が出来上がるのだ。
俺も納得出来て、誰かも納得出来るもの。それが最善だと分かっていても、一人では考えれなかった。自分以外の誰かの意志を汲み取る方法が分からない俺に、五味は提案してくれるのだ。
そういう奇異な人間は五味だけではないと知る。
二年になって、新入生が入ってくる。そんな中、中でも際立つ生徒がいた。
真新しい制服をしっかりと着込んだ一年生たちの中、跡形もなく改造した制服に派手なアクセサリーをじゃらじゃらとぶら下げた生徒。
それが、十勝だった。
周りに注意されても、周りにどんな目で見られても気にしない。それどころか「だってせっかく自分のものなのに好きに出来ないなんて、つまんなくね?」と当たり前のように言い返す。
そんな十勝の言葉がずっと離れなくて、俺は、十勝を見かける度に制服のことを注意するようになる。それでも、十勝は笑って「あんたも飽きないっすね」と流すばかりだった。
どんなにしつこく注意しても、とうとう最後まで十勝直秀は俺のいうことを聞かなかった。
頭が悪くても、どんだけ問題を起こしていても、やつの信念は本物だった。
それが、気に入った。
そんな十勝を生徒会に誘ったのは、ただの気紛れだ。元より生徒会としての働きに関してはなんの期待もしてなかった。けれど、俺が想像していたよりも本当にやつは何もしなかった。
それと、もう一人。
灘と知り合ったのは奴がまだ中等部の頃、俺が入学して間もない頃だった。
校内を探検してる内になんとなく迷い込んだ中等部校舎。
戻るにも戻り道が分からず、ウロウロしていると前方からたくさんの荷物を抱える人影を見つけた。
普通の人間ならば分けて持っていくだろうその荷物を一気に抱えたそいつが、灘だった。
ふらふらとした足取りで、今にも荷物を撒き散らしそうな危うい灘に「俺も手伝おうか」と声を掛ければ、灘は「大丈夫です」と即答した。
「これは俺に課せられた仕事なので」と、続ける灘は他の中学生とはどこか違っていた。雰囲気、硬い表情筋、淡々とした喋り方もだが、その目が、嫌に引っ掛かった。
なぜ一度にその量の荷物を持つのだ、効率が悪いだろうと言えば「往復してる時間がないからです」と答える。
「それでは」とだけ言い、灘はさっさと俺の目の前から消えた。
誰にも助けを求めず、非効率的だとわかっていても要求に応えようとする呆れるくらい不器用なやつには見覚えがあった。だからだろう、気になったのだ。
十勝とは別の意味で浮いていた灘を見つけるのは容易だった。
なんでもかんでも周りの意見を聞き入れ、言われた通りにする灘を見ないふりすることが出来ず、つい構うようになってからは、授業中以外一緒にいることが多くなる。
それから、生徒会に入れるまで然程時間は掛からなかった。
『五味、灘はまだ見つかっていないのか』
『……お前は、灘の心配はするんだな』
『……』
『栫井のことは気にならないのか?』
『あいつは、自業自得だ』
『本当にそう思っているのか』
『……』
……平佑。顔を思い出すだけでも嫌なものが込み上げてくるのが分かった。
平佑は、俺にとっては弟みたいな存在だった。過去形だ。それも、今では少しでもそんなことを思っていた自分を切り刻んでしまいたいくらいだ。
あいつは、疫病神だ。父や母を奪うだけではなく、齋藤君の信頼までもあいつは奪った。
学園生活だって、やっとあの忌々しい家から離れられて清々してるところにあいつは俺の後を追い掛けて来やがった。俺を監視するためだ。苗字を捨てて、ようやく楽になれると思った俺の前に、真新しい制服を身に纏ったあいつは立っていた。
――……知憲君、久し振り。
そう、バツが悪そうに、ぎこちない笑みを浮かべて。
『……ッ』
『芳川、おい……』
『騒ぐな、すぐに止むと言っているだろう……ッ!』
『……悪い、させたくねえ話させたな』
『……』
平佑は、何をしても、付いてくるなと言っても、少し離れた位置からついてきた。
俺の見えないところからやつに監視されていると思ったら気分が悪くて、だから、俺は平佑を傍に置くことにした。監視されるくらいなら、こちらの手元にいた方がまだましだから。だから、副会長に指名した時、平佑は嬉しそうに、嬉しそうに笑ったのを見て、ステージの上、込み上げてくる殺意を圧し殺すので精一杯だった。
何を笑っているのかが分からなかった。俺の行動が思う壺だったから?浅ましい俺の判断を笑ったのか?何れにしろ、不愉快だった。あいつが嬉しそうにすると許せなかった。俺がこんな気持ちなのにあいつが幸せになっているのはおかしい。それでも、五味や十勝、灘は平佑を気に入っていたから、その手前手を出さないでいてやった。
なのに、あいつは、一度ならず二度までも俺を裏切った。
阿賀松伊織と組んで俺を陥れようとするなんて、愚の骨頂だ。
『……これは、天罰だ』
俺からすべてを奪ったあいつからすべてを奪う。
立場も、味方も、すべて。そうでなければ不公平だろう。
不公平じゃないか。
なのに、あいつは最後の最後に、齋藤君を手に入れた。
どんだけ優しくしても、どんだけ彼のことを考えても、俺では手に入れられなかった齋藤君を。あいつは、容易く。
『……芳川』
『五味、帰ってくれ』
『まだ見舞いの時間は終わりじゃないだろ』
『帰れと言ってるんだ』
『なあ、芳川、俺、ここに来る途中図書室を見つけたんだ。こういう病院の図書室ってどういう感じなんだ?気になったんだが、余所者の俺が一人図書室を使うのも忍びねえからなぁ……』
『……』
『なあ、図書室に行かないか?……お前、好きだろ、本』
『俺の話を聞いていたのか、五味』
『ああ、聞いていた。けど、どうせ帰るんだったら寄ってもいいだろ?道は一緒なんだし』
そう言って、五味は笑う。
本なんてスポーツ雑誌か釣り雑誌くらいしか読まないくせに何が図書室だ。下手なごまかしで馬鹿にするのもいい加減にしろ。
言い返したいのに、五味の笑顔を見てると言い返す気すら削げる。
『……呆れた。お前、十勝に似てきたな』
『そりゃな、お前がいなくなって生徒会室でずっとあの調子の十勝と一緒にいたら嫌でも伝染るって』
『……』
本当は、あまりうろうろするなと言われていたが、ここでごたごた話すよりは気が紛れそうだ。
俺は、五味に付き合うことにした。
図書室には、行ったことがなかった。
入院中、安静にしてろと言われていたが別に動けないわけでもない。それでも動かなかったのは少しだけ、具合が悪かったからだ。収まらない頭痛に眠気、たまに吐き気があったが堪えきれない程ではない。それでも動かなかったのは、その元気がなかったからだ。
『へぇ、結構あるじゃねえか』
『お前が読めるようなものは無さそうだがな』
『おいおい、馬鹿にすんなよ。俺だって文学書くらい読めるっての』
『そうか、それは悪かったな』
本は、嫌いではない。
嫌なことがあったとき、よく本を読んでいた。その間、何もかも他のことを考えなくて済むからだ。
俺は現実逃避のために本を読んでいた。
最近は読む暇がなかったが、たまには悪くないかもしれない。
棚に並ぶ背表紙を一つ一つ辿る。俺はその中から数冊、気になったタイトルを手にした。
『げっ、お前何冊読む気だよ』
『何冊って……三冊だが』
『明後日だぞ、退院。俺、一冊読むのにも三日かかるっつーのに……』
『……フッ』
『何笑ってんだよ、お前』
五味のお陰で、少し気が紛れだのは事実だ。
いつの間にかに先程までの怒りは収まっていた。
五味は、俺の性格をよく把握している。俺だけではない、周りの人間の性格を把握してはそれぞれ適切な距離を保つのだ。
中学の頃、野球少年だった五味はその功績が讃えられ、スポーツ推薦組としてこの学園に入学した数少ない一般家庭出の学生だ。
殆どの生徒が中等部からのエスカレーターで上がった顔見知りばかりの中、俺と五味は同じ【部外者】だった。
とはいえ、才能がある五味と俺とでは根本から違う。それでも、チームプレイを重視するスポーツをしてきた五味だからか、人の気持ちを汲み取ることは俺よりも長けていた。
だからだろう、こんな俺にわざわざ付き合うのは。
五味を見送り、本を手にしたまま俺は病室へ戻る。
向かいの部屋の中年の男は相変わらずテレビを見ていて、その隣では怠け者の大学生が眠っている。
学園にいた時には考えられなかった。こんな意味のない時間を過ごすことになるなんて。
五味は言っていた。この機に、少しでも休んでほしいと。
休むという意味が俺には分からなかった。眠っていても起きていても纏わりついてくる現実を振り払うことも出来ず、ただ、針が進むのを待つ。それが休むことだと思っていた。少なくとも、俺は。
けれど、病院にいると、自分以外のものに目が行くようになった。
見舞いが来た、来てないで一喜一憂する患者もいれば、入院することによって一日中自由になれることを喜ぶ患者、病院食がまずいだとかで盛り上がる患者。
学園と関係ない場所だからか、周りが俺に関心を持っていないということだけでなんだか、酷く肩の力が抜けるようだった。
生徒会長として、人前に立つことは好きではない。
それでも、当たり障りのない演説に目を輝かせ、拍手なんてする連中を見下げるのは……悪い気がしなかった。
それでも、もう少しの辛抱だ。
次の生徒会選挙で他のやつにこの腕章を渡せば、全て終わる。俺は、本当の意味で開放されるのだ。
そのために、ここまで来たんだ。何人もの生徒を蹴落としてやっと、この腕章をもぎ取ったんだ。
……あと少しの辛抱だ。
それまでに、なんとしてでも俺は残らなければならない。
――お前が矢追ヵ丘学園のトップとして卒業できたらちゃんと更生したと認めよう。卒業した後の進学、就職も援助しよう。
――勘違いするなよ、私達が君にここまでするのは君のためじゃない。君のご両親がこのままでは哀れだからだ。
――少しでもその気持ちがあるなら、卒業までの金銭は工面してやる。しかし、卒業しても君自身が何も変わらなかった場合は養子縁組を切らせてもらう。
中学の頃、殴り過ぎたのが原因で突っ込まれた少年院を出所したとき、迎えに来た男『芳川』はいった。
俺に何かすることすら煙たがっていた親戚たちとは違い、その男はなんでもすると言った。
芳川は両親の知り合いだと言った。芳川にとって両親は恩人だとも言った。だから、俺を引き取ると。
伸びた髪を切り、タトゥーも消した。ピアスも外した。学園に入って、他の生徒から尊敬されるような人間になれと。それが両親のためだと言われた。
忘れかけていたものが蘇るようだった。恨み辛みに囚われていた俺を煙たがることもなく芳川は俺の知らない両親の話をたくさんしてくれた。
両親のことを褒められると、嬉しかった。
火事の日の夜を思い出しては胸が痛かったが、それでも、他の人間は腫れ物のように触れられなかった両親の死に、芳川は触れた。
それは俺に現実を見せるためだろう。それでも、なかったことにされるよりかはずっと、良かった。
学園に入って、久し振りに着た制服というものに酷く緊張していたのを思い出す。
ピアスの穴も塞いだつもりだったが、元々の知り合いがいたらどうしようとも思った。
なんとしてでも、芳川との約束を果たすために、頑張っていこう。そう、思ったのに。
『気に入らねぇなぁ、お前』
髪先からぼたぼたと滴る液体。
たくさんのピアスをぶら下げた、真っ赤な髪をした男は、俺を見て笑う。
『黒髪、似合ってねえぜ』
赤い髪の男の手に握られたグラスのジュースをぶち撒けられたことにはすぐに気付いた。
……阿賀松伊織。
その男の噂は聞いていた。風紀委員長で、理事長の孫。目を付けられたら厄介な男だとも。
初めて会ったのは食堂で、入学したばかりの、五味や仁科とつるみ始めたばかりのことだった。
ざわめく食堂の中、俺は、トレーの上に乗ったフォークを手に取りそうになったが、寸でのところで留まったのは芳川との約束があったからか。
込み上げてくる殺意を堪え、俺は、阿賀松伊織を無視した。
何事もなかったかのように、食事を続けた。飛び散ったジュースが入った定食は最悪だったが、こんな男のために約束を破りたくなかった。
破りたくなかったんだ。
人というものは順応する。
ある程度その環境に慣れたら、微かな綻びが出てくるのだ。
俺の場合は、欺くことだった。
人の目の誤魔化し方が分かった。次に自分の意志の殺し方を身につけた。そして、最後は人の目を欺きながらも自分を殺さずに済む方法を見つけた。
けれど、過去はどうすることも出来なかった。
前任の志摩裕斗は、俺を可愛がった。手元に置いてくれて、勉強の出来なかった俺に分かりやすく教えてくれたりもした。
志摩裕斗のことは嫌いではない。寧ろ尊敬していた。こんなに人のことに一生懸命になれる馬鹿はいるのだろうかと。
芳川が言っていた人間とは、志摩裕斗のような人物を指すのだろうと思った。
この人から生徒会長の腕章を渡してもらえたらどれほど嬉しいのだろうか。そんなことも考えていた。けれど。
落下していく背中。こちらに伸ばされる手。
見開かれた目には、俺が映っていたのを今でも覚えている。
それは、立て付けの悪い建物で起きた、不運な事故だった。
助けなければ。手を伸ばせば届く距離だった。無傷ではすまなくても、無理をすれば引き上げることだって出来ただろう。それでも、俺は、伸ばしかけた手を、引っ込めた。
そして頭の中に声が響く。
『これで障害が一つ減ったな』と、笑う声が。
俺は何も変わっていない。人の騙し方と蹴落とし方ばかりを覚えて根本的なものは何も変わっていない。
悲しいとか遣る瀬無いという気持ちよりも笑いが出た。
ああ、やっぱりな。と。いくら上辺を取り繕ったところで腹の底はなんも変わりゃしない。
変わろうとしても、担架に担がれた志摩先輩を見ても、何も思えない。涙も出なけりゃ、なんの興味も沸かなかった。代わりに、教師から受け渡された腕章を右腕に嵌める。あの人の手から貰えなかったのは少し残念だが、この時点で俺の中での芳川知憲は出来上がってしまった。
そして、それを崩さないために外壁を積む日々が続いては本当の自分が見えなくなっていく。
理想の生徒会長であるためにはなんでもした。馬鹿な話にも真剣に耳を傾けた。イベントごとにも取り組んで、どうすればいいのかも悩んだ。沢山の生徒たちに感謝される度に、本当に自分が別人のようになれたのだ。
けれど、作り上げた外壁は少しの衝撃で全体に亀裂が入るほど脆かった。
過去を知られ、これまで築き上げたものを壊されると思ったら気が気でなかった。
約束のこともだが、それ以上に生徒会長としていられた時間は俺にとって大きかったようだ。
もし阿賀松と齋藤君がけしかけて来た時の手も既に打っている。
心配することはない。
そう分かってても考えてしまうのは場所が場所だからだろうか、余計なことばかり考えてしまうのだ。
俺は借りてきた本を手に取った。
少しだけ眠ろうと思ったがこのままでは難しそうだ。
本を読んで、落ち着いてから眠ろう。
仕切られたカーテンの中、俺はページを捲った。
あと少しだ、そうすれば、縛られる必要はなくなる。
あと少しで、俺は……――。
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