天国か地獄


 side:安久

 校舎から飛び出した御手洗安久は仁科を引き摺るように校庭を駆け抜ける。
 志摩亮太のいうことが本当ならば、旧体育倉庫には憎き生徒会長がいるはずだ。そう思うと居ても立ってもいられなくて、今だけはこの無駄に広い校庭が恨めしかった。

「仁科、早くしろ!」
「わかってるから引っ張んなって……!」

 すると、目的の場所である旧体育倉庫が見えてきた。
 ようやくあのいけ好かないクソ眼鏡を捕まえることができる。
 その思いだけが安久を突き動かしていた。

 旧体育倉庫前。
 滅多に人が立ち寄らないため、草が生え放題なったそこは陽射しもなく、どことなく湿った空気が漂っていた。
 湿気や不潔な場所を嫌う安久は旧体育倉庫に近づく事を一瞬躊躇ったが、尊敬する阿賀松伊織のためだ。
 そうは思うけど、今にも虫が出てきそうな草むらに突入することを躊躇っていたとき。

「おい、安久、なにやってんだよ」
「う、うるさいな……!あんたからいけよ!年上だろ?!」
「えっ、年齢関係ないだろ別に……」
「いいから、早く行って!この草をどうにかして!」

 動こうとしない安久にこれ以上突っ込んで噛まれたりでもしたらたまらない。
「はいはい」と諦めたように先を進んで行く仁科だったが、旧体育倉庫の前に来た時、「あっ?!」と素っ頓狂な声を上げる。
 まさか蛇でも出てきたのだろうか。そうビクついた安久だったが、なかなか戻ってこない仁科に焦れ、慌ててその後を通って仁科の元へ向かった。
 そして、

「おい、なんだよ、アホみたいな声して……えっ?!」

 呆然と立ち竦む仁科奎吾の目の前、目的の旧体育倉庫はあった。
 あったが、その旧体育倉庫には以前とは明らかに違う点が一つ。
 扉だ。まるで車でも突っ込んだかのようにひしゃげた旧体育倉庫の扉は外側から無理矢理抉じ開けられたようで。

「な、なんだよ、これ……!」

 もぬけの殻となった半壊の旧体育倉庫に、御手洗安久は全身の血の気が引くのを感じた。

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