創造グループ | ナノ


▽ 初めまして小さな光


この夢を見るのはいつぶりだ? 見慣れた自室の天井を眺め、ぼんやりとした意識で考える。月が溶けて、星のように瞬いて、氷結した世界に降り注ぐ夢。目を奪われるほど眩しい光景に俺はただ立ち尽くしている。そして隣に居た誰かが俺に声をかけるところでいつも目が覚める。あのとき誰が隣にいて何を言ったか。何度も夢に見ては聞く言葉だが覚えていない。まあ夢はそういうものだが、こうスッキリしないところがなんとも言えない。

夢のことを考えていると階段をトントンとリズムよく登る音が聞こえてくる。

「げーんえい! おーはよっ!」

勢いよく顔を出したのは同居人の憂(うい)。数ヶ月前から仕事の一環で俺の家に居候している。無邪気で純粋無垢な少女。彼女の兄である、反転(はんてん)曰く、世界から生まれたらしいが俺には詳細はわからないため省く。
『生まれてきたはいいが世界を知らなすぎる。幻影から教えてやってくれ』
と反転に押し付けられたのだ。普通、一人暮らしの男に大事な妹を任すのだろうか。人間でないせいか、感覚がどうもずれている。……そういえば憂と初めて会った日も夢を見たな。

「今日はいつもより寝てたね。なんかいい夢でも見たの?」

憂はそう言うとベッドを弾ませ俺の横に座る。俺としては世界を知るだけでなく警戒心も覚えて欲しかったが、何度言っても気にしないため、すでに諦めている。

「夢は見た。いい夢というより変わった夢だ」
「ふーん。ねえどんな夢?」
「月が流星に変わって空を埋め尽くす夢だ」
「わぁ! 素敵な夢! それで? 他にはなにかある?」
「素敵か? まあいいか。後はその光景を凍った世界で眺めているんだ。それから」
「それから?」
「忘れた」
「えーーー!」

憂はつまんないと口を尖らせる。嫌というわけではないが、夢の続きを言いたくなかった。なんとなくだが夢の内容を今言ってしまうと予知夢になる。確証がないものを信じるたちではないし、好きではないが、こればかりはどうもそんな気がしてままならない。
下にあるキッチンから高い音が耳に届く。またやったな。

「それより、ヤカンを火にかけたままだろ? 沸騰した音が聞こえるぞ?」
「あ! いけない! 忘れてた!」
「だからあれほど火を消してから離れろって言ってるだろ」
「ごめんなさい! 消してくる!」

まったく、あわてんぼうというかどこか抜けているというべきか……。
部屋を出たはずの憂がひょこりと顔を出す。

「あ、朝ごはんできてるから早く降りてきてね」
「はいはい」

ご機嫌に降りていく憂を見て、大袈裟だと思いつつ、朝の支度を始めた。

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