まさかの出来事






3時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

手塚は次の授業の準備をしようと、机の中から教科書を引っ張り出す。



そんな時に、手塚のもとに一人の訪問者が。







「やぁ、手塚」



「…不二か、どうした」








爽やかスマイルで現れたのは不二だった。
左手には分厚い英和辞書を持っている。








「これ、返しに来たよ」



「そうか」



「ありがとう、助かったよ」



「あぁ」








持っていた分厚い英和辞書を手塚に差しだし、お礼を言う不二。



不二は授業で使う英和辞書をたまたま忘れてしまい、手塚に借りていたのだ。








「そうそう、見てほしいものがあるんだ」



「…何だ」



「ふふ、ちょっといい?」








そう言いながら不二は、たった今返したばっかりの英和辞書をパラパラめくる。








「あ、あった」



「………?」



「良く見てて」








言った瞬間、一定のスピードを保ちながら辞書をペラペラめくっていく不二。
手塚は黙ってその様子を見つめる。








「……不二…」



「すごいでしょ?僕の大傑作だよ」








得意気に言う不二に手塚は少々呆れ気味にため息をつく。








「…これは俺の辞書なんだが…?」



「うん、知ってる」



「ならば何故、こんな…」








そこで一旦言葉を切り、軽く深呼吸。

そして、続ける。








「パラパラ漫画など書いた」








実は、不二が今手塚に見せたものとは、不二の力作と言ってもいいほどのパラパラ漫画だった。

内容はただ、テニスボールが跳ねたり転がったりするだけの単純なものだが、その動きがとても滑らかでまるで映像のよう。
完成度はかなり高い。







「いや〜、ガラにもなく頑張ちゃった」



「…頑張り過ぎだ…!」








てへへ、なんて笑う不二に呆れて何も言えない手塚。








「そもそも、不二。お前授業中にやっていたのか?」



「まぁね、大変だったなぁ〜」



「大変だったではないだろう!」



「大丈夫大丈夫、ちゃんと授業は聞いてたよ」



「問題はそこではない!」








まさか不二がこんなことをするとは。
さすがの手塚も予想していなかった。

しかも、ここまで完成度の高いパラパラ漫画を書けるとは。
これも予想していなかった。



いや、今はそんなこと考えている場所じゃない。








「不二…お前…」








―キーンコーンカーンコーン








「あ、チャイム。じゃ僕は戻るね」



「おい、不二!待て!話しはまだ…」








パラパラ漫画の書かれた英和辞書を持って狼狽える手塚をその場に残し、不二は颯爽と我が教室へと戻って行ってしまった。

残された手塚は一人、英和辞書片手に呆然とその後ろ姿を見送る。

そして、もう一度パラパラ漫画をめくり、小さくため息をついた。







「………はぁ」








結局何故不二はパラパラ漫画を書いたのか。謎のまま4時間目の授業は始まった。





―END―







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