部活に出んかい!






『めぇ〜いちゃぁ〜ん!』



「めいちゃ〜ん!」



「……………」













現在の時効、午後5時半。
四天宝寺中男子テニス部は絶賛部活中…のはずなんだけど―――。

部長の白石は、部活が始まっても千歳が来ないことに気が付いた。

まぁ、それはいつものことだからさして気にはしなかった。
けど、一年生部員が部室で千歳を見たと言っていたのを聞いて、居場所が分かっているならと、千歳を呼びに部室へ来た。



一年生部員が言ったように、確かに千歳は部室に居た。
が、何故だか引っ付くようにして夢中でテレビを見ている。








「おいこら千歳。自分何見とるん?」



「ん〜?」








そんな白石の問いに、千歳は視線をテレビに向けたまま答える。








「見れば分かっとね、トトロばい」








千歳が夢中になって見ていたのは、ジブリの名作『となりのトトロ』。
ちょうど、おばあちゃんが居なくなってしまっためいちゃんを必死で探している場面。



白石の額にうっすら青筋が浮かんだ。








「トトロ見とるくらい分かっとるわ!」



「ならいちいち聞かんでもよかね」



「うっさいねん!」








いまだにトトロに夢中になって、白石の方に見向きもしない千歳に、白石のイライラはつのるばかり。








「だいったい、何でトトロ見とんねん!」



「え〜?…見たかったから?」



「疑問系で喋るんやめぃ!」



「トトロが見たかったっちゃ」



「ラムちゃん喋りもやめぃ!」



「注文が多かね〜、白石クンは〜」








のんびりした千歳に、ツッコミまくる白石。
よく言えば二人らしいが。








「って、こんな漫才どうでもええねん」








さすがは聖書。
一度熱くなった感情を静め、我にかえり一呼吸。








「千歳、今部活中やぞ」



「……え…」








千歳は勢い良く白石を振り返り、驚き顔。
とことんわざとらしい。








「…何初めて知りましたみたいな顔しとんねん、わざとなんバレバレや」



「やっぱダメだったか〜」








額に手を当てて、やっちまったのポーズ。








「当たり前や!ちゅーことではいっ!トトロ終了〜」








そう言いながら、白石はテレビを消した。








「あ"っ!?白石なんばしよっと!?」



「トトロとはお別れです〜、お家帰ってから見て下さい」



「嫌ばい!」



「嫌ちゃうわ、部活やらんかい」



「やだ!俺の体がトトロを求めちょる!」








そう言ったかと思うと、千歳はテレビに引っ付いた。








「意味分からんわ…だだこねんで、ほら、行くでー」








白石は千歳の腕を掴む。

それでもテレビから離れようとしない千歳を、力いっぱい引っ張りテレビから引き剥がす。








「と、トトロォォォォ!」



「黙りぃ!デカイ図体しとるくせに泣き叫ぶなや!」



「だって…トトロォォ!」



「やめれ、アホ!気持ち悪いねん!」



「き、もち…悪い…!?」








容赦ない白石の暴言。そんな白石に対し千歳は、トトロとの別れからのショックなのか、気持ち悪いと言われてのショックなのか、呆然と白石を見つめる。

そして、精神的ショックを受け抵抗する力が弱まった千歳を、白石は遠慮なしに床を引きずり部室を出た。











死んだ目をした千歳を連れ、コートに戻った白石。

また、いつもと変わらない部活が再開した。


少し違うのはサボり魔の千歳がいることだけ。








「千歳!シャキッとせぇ!」








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