ときめき勘違い






「なぁなぁ侑士ー」








只今放課後の生徒会室でくつろぎ中の、氷帝ダブルスコンビ。



跡部が居ないことをいいことに、忍足はふかふかのソファーにでーんとのけぞり、岳人は窓から身を乗り出し外を眺めていた。

跡部の奴、いっつもこんなふっかふかのソファーに座ってたんか…なんてちょっと腹立つのを抑えながら、忍足は相方の呼ぶ声に耳を傾ける。








「なんや〜」








そんな気の抜けたような忍足の反応を余所に、岳人は少しテンション高めで言う。








「あそこに可愛い子いるぜっ」



「………可愛え子…?」



「おう!可愛い子!」



「…興味あらへん」








今俺が興味あんのはこのふかふかなソファーだけや。
そう言いながらかうとうとしそうになる忍足。

けれど、岳人の一言で一気に目が覚めた。








「あ、あの子足きれい」



「……可愛え子どこや」








言うやいなや、忍足は岳人に並んで窓から身を乗り出した。

ほら、あそこ。と岳人は指を指す。








「何や、後ろ姿やん」



「後ろ姿だけど可愛い感じしねぇ?」



「まぁ、分からんこともない」



「だろ?足きれいだし」



「おん、きれいやわ」



「髪の毛くるくるしてるし」



「おん、くるくるしとるな」



「絶対前から見ても可愛いって!」



「可愛えことを願う!」









なんだか熱く語る二人の目線の先には、氷帝学園の制服を着た一人の女の子が。
周りには数人の男子生徒がいる。



二人が言ったように、栗色のくるくるした髪型、ちょっと短めのスカートから見えるすらっとしたきれいな足。
確かに後ろ姿だけだけど、可愛い感じの女の子だ。








「せやけど、あんな子氷帝に居ったか?」



「知らねー。俺は見たことないぜ?」



「俺もない気ぃするわ…」








ふと小さな疑問が二人の頭に浮かぶ。








「顔さえ見えれば分かるかもしんねぇのにな」



「せやな。こっち向け」








なんて忍足が言った瞬間、運良くその可愛い女の子が二人の方に振り返った。








「………え?」



「………は?」








だけど、何故だか忍足と岳人の二人は一瞬にしてフリーズ。

はたして今、自分達は何を見ているのだろうか。



可愛い女の子?
それとも………。








「ちょお待てや、岳人。あれ何や、ちょお、は?」



「くるくるスカート足きれい…?くるくるスカート…足きれい」



「あれ?ちょお、俺目ぇ悪なった?あれ?」



「くるくるスカート足きれいくるくるスカート足きれい…」








只今絶賛混乱中。
そりゃそうだ。
だって可愛い女の子だと信じてときめいていた人が…。








「…あれ…男…やんな…?」



「…あ、あはは…男…」









そう、見た目は女の子。
いや、後ろ姿だけは可愛い女の子。
でも顔は完璧な男。








「なっやねん!あいつD組の高橋やん!」



「くそくそ!高橋かよ!」








D組の高橋くん。
ノリの良さと運の悪さで有名なひょうきんもの。








「高橋どんだけ足きれいやねん!むっかつくわー!」



「本当だぜ!なんであんな格好してんだよ!」



「ちゅーか俺らのときめき返せや!」



「返せ返せ!あ゛ぁー!くそくそ!」



「アカンわ、高橋シバかな気が収まらへん」



「俺も!侑士今から高橋んとこ行こうぜ!」



「おん!待っときぃ!高橋!」








勘違いしたのはどこぞのダブルスコンビだっただろう。



その後、慌ただしく生徒会室を出て行った忍足と岳人は高橋くんの元へ直行。
そして校庭に、高橋くんの悲痛な悲鳴が響き渡った。








『高橋ぃぃぃっ!』





―END―







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