愛しのにゃんこ






「………仁王?」








校舎裏の小さな草むら。

意味もなしになんとなくふらふら散歩していた幸村は、そこで仁王を見つけた。



仁王は何故だか隅の方でこちらに背を向けてしゃがみ込んでいる。





そんな仁王は幸村に声を掛けられると驚いたのかパッと振り向き、声を掛けてきたのが幸村だと気付いてちょっとホッとした様子で呟いた。








「…何じゃ、幸村か…」



「そんなに驚くことないだろ」








幸村は仁王の反応に苦笑い。








「それより、こんなところで何してるの?」



「別に…何でもなかよ?」



「……ふ〜ん…」








仁王はそう言ったけど、さっきの反応からして何もないはずがない。
そう思った幸村は、後ろから仁王の足元を覗き込んでみた。



するとそこには予想もしていなかった、ある可愛らしい生き物が。







『みゃ〜』








「……仔猫…?」








少し明るい茶色に、ところどころ白い毛の混じった小さな仔猫が、幸村を見上げ鳴いた。








「見つかったナリ」








ちょっと困ったような顔の仁王は仔猫を優しく撫でる。








「この猫、どうしたの?」



「さぁの、迷い込んだんじゃろ、きっと」



「可愛いね、君」








微笑んだ幸村はそっと仔猫を撫でる。
仔猫は気持ち良さそうに小さく鳴いた。








「でもこんなところに居たら先生に見つかっちゃうね」



「そうなんじゃよ。見つかったら絶対追い出されるのぉ」



「だろうね」








寂しそうに仔猫を見つめる仁王。
相当この仔猫が気に入っているみたい。



それに気付いた幸村はいたずらっぽく笑って仁王に言った。








「もしかして仁王、仔猫が先生に見つかるの嫌なの?」



「……………」



「あはは、図星だ」



「…だって可愛いじゃもん、こいつ」








「離しとぉなか」なんて言いながら、仁王は仔猫を抱き上げた。

どうやらすでに仔猫の虜らしい。
頬っぺたを仔猫の頭にすりすりしたり顎の下を撫でたりと、とても詐欺師とは思えない柔らかな笑顔で仁王は仔猫とじゃれている。








「あ、仁王ばっかりずるいよ」



「何がじゃ?」



「俺にも抱っこさせて」








仔猫とじゃれている仁王を横で見ていた幸村が、羨ましそうに呟く。








「…抱っこしたいんか?」



「うん」








幸村の意外な反応に仁王びっくり。

けど本当に抱っこしたそうな幸村の様子に、しぶしぶ仔猫を渡す仁王。
とても残念そうなのは言うまでもない。








「はは、本当に可愛いね。女の子?」



「男の子ぜよ」



「…本当だ。うん、残念っ」



「どういう意味の残念じゃ、それ」



「え?女の子じゃなかったこと」



「…残念じゃー」





















―キーンコーンカーンコーン





それからしばらくして二人の仔猫との幸せイチャイチャタイムは、休み時間の終わりを告げるチャイムで一気に現実に戻された。








『にゃあ〜』



「チャイム、鳴っちゃったね…」



「…知らん、俺は何も聞いてなか」



「じゃあ俺も聞いてない」








完璧に仔猫の虜になってしまった幸村と仁王は、聞いたはずのチャイムを聞かなかったことに。

もちろんこの場には二人と仔猫しか居ないから、こんなことを言う二人につっこんでくれる人は居ない訳で。








「次の授業はサボり決定じゃ〜」



「サボり決定〜」



「にゃんこと遊ぶナリ」



「あ!また仁王ばっかり抱っこしてずるいよ!」



「幸村も抱っこする?」



「する。にゃんこおいでー」








みんなが一生懸命授業を受けている中、甘い甘〜い仔猫との時間が二人を幸せに包んだとさ。








『みゃ〜お』





―END―






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