流行の毒できみの愛を奇形にするのだ

「お前太ったか」

紅炎様の言葉に一瞬思考が止まった。
確かに私は食べた。故郷の地で、キャラバンの中で、旅の中で、移動の最中で。
動かないで食べていた。動いた記憶があまりないのはどうしてか。
その代わりにてきぱきと動く赤い髪の少女ばかり思い出されるのは何故か。

つまりは、そういうことだ。

「…太ったと感じても言わないでいただけますか」
「何故だ。別に不満を述べてる訳じゃない。元が細かったからこれでようやく普通の体系くらいだろう」
彼は私に甘い、と思う。そんな彼の一言で安心しかけている私も私だ。
これではいけないと思い直して再び口を開く。

「そういえば、随分と帰りが早かったな」
つらつらと食事がああだこうだ量がどうのこうのと話していた。
が。
紅炎様の言葉に一瞬思考が止まった。

そもそもがだ。
しばらく故郷の地に帰っていない、少しでいいから弟の顔を見に行きたいと言ったのは私だ。
しかしふざけたことをと一蹴されても仕方ないと思っていたしまさかあっさり承諾するとは露も思っていなかった。
信用されたのだと、それはそれは嬉しかった。だからこそ心配や迷惑をかけないよう急いで帰ってきた訳だ。
モルジアナ達に後ろ髪引かれる思いで…ああ、そうじゃなくて。

そうではなくて。
私はこうやって少しでも早く一刻でも早く彼の顔を見てこうして話をしたかったのに。
そう思うのは私だけなのかと彼の一言、たった一言がずしりと重く響く訳だ。

涙もろくなったのはいつからだろう。
はらはらと目から零れる滴を止めようとも思わず彼を見据える。

「無事に帰って良かったと言ってくださればそれだけでいいのに」
私が泣く姿に驚くような表情を見せた彼はそれでも落ち着きをはらって口を開く訳だ。

「言ってなかったか」
「聞いてません!」
声を張り上げたことでますます溢れる涙を荒く拭ってつかつかと彼に近付く。
なんとなく泣いてしまったことが情けない。
だって、わかってる。彼の一言にはそんな大した意味などないだろう。

「好意を示すならもっとわかりやすくお願いしたいものです」
随分な自信だと笑う彼に事実でしょうと同意を求めれば頷くから、だから、私は彼が好きなんだろう。

世界に逆らう音がする。
それはとっても素晴らしい音。
(こちらは聾唖だけれどね!)

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