きみのひとみを喰いちぎることもなかった

彼の瞳の中には私だけがいると信じて疑わない。
そんな私は実際はどういう風に彼の瞳に映ってるんだろうか。

「(うつってすらいなかったら、)」
どうしようなどと考えながらため息をついた。

しばらく煌に留まっている中で色んな事があった。
その中で一番大きな出来事はシンドリアの国王が煌にきたことだ。
白龍様がシンドリアへ留学する事が決まると何故か紅炎様は私もと推してきた。
一応第一皇子の嫁というかそんな立場の私をほいほい自由にさせていいのだろうか。
何故彼は私を放すのに躊躇がないんだろうか。鬱陶しいとでも思われているんだろうか。
否定するだけの根拠は一体どこにあるんだろう。

悪い方へ悪い方へといく思考に終止符を打つ。
楽しまなくては、損だ。シンドリアは気候は温暖で料理も美味しい。
これ以上にない楽しい思い出を作って彼に自慢げに話してやろう。そうしよう。
もう既に彼が恋しくて早く私を呼ぶその声を聞きたいだなんて絶対に言ってやらないんだ。

シンドリアへと来て一悶着あり、自己紹介を終えて、一段落した。
まぁ、それなりに、驚かれた。
そして私とシンドバッド王が顔見知りである事に気付いたジャーファルさんがやけにそわそわとしていた。
けれど、決してそんないかがわしいことはしていないので安心してほしい。

元気そうなモルジアナに会えたのはとても嬉しかった。
アリババやアラジン達とも会えて良かった。
けれど、やっぱり私の頭の中には彼がいて。
どうしても考えてしまうのだから末期だ。
世界中に私と彼だけだったなら、なんて。

「おねえさん、おねえさん、久しぶりだね!」
うふふ、と笑う彼はアラジンだ。でれっとした顔つきは相変わらずだ。
モルジアナやアリババの姿は見当たらず、彼は一人きりで私のところにきたらしい。
会いたかった、元気そうで良かった、色んな事があったんだよ、と彼が語る。
ひとしきり語った後にふと、真剣そうな表情を作る。
あのね、と改まる彼は私を見上げていて、その大きな瞳にいつもと同じく馬鹿みたいな顔の私がいた。

「おねえさんの傍は気持ち良いね。とても安心するんだ。おねえさんのルフはとても優しい声で鳴くんだよ。うん、落ち着くんだ」
眉根を寄せて、辛そうな顔を作ると彼が言葉を続ける。
でも、おねえさんのルフは真っ黒だね、と。

私はルフが見えない。
魔法使いの類ではないし、特別な力がある訳でもない。
魔力だマギた迷宮だといった知識はそれなりにあるが、それだけだろう。

真剣そうに私を見上げる彼に笑みを、作った。

「…ルフが、黒く染まるのを堕天というのならば私は確かに堕天してる。この運命を憎んで、呪って、嘆いて、恨んでいるのは否定しません」
だけど、と言葉を続けようとするとじわりと胸に黒い染みが広がる。

「信じて。私は世界を救いたい。叶うなら、みんなが幸せになってほしい。目の前の人を助けられるのならば手を差し伸べたい。決して誰かを傷つけたりなんてしない!」
嘘はない。
私の言葉に嘘は一つも、ない。

「そうだね、おねえさんはいつもそうだよね。だから僕はおねえさんがとっても大好きなんだよ!」
だからくだらない理想論だと誰か笑ってくれ。

でも、そうだ。もしも世界中で二人きりになれたなら。
彼を悩ませるものも傷つけるものなくなって、私もずっと彼の事だけ考えてればいいんだ。
理想の世界とは、だから、きっと、それは、

この狂気はどこにいってしまうの。
多分誰も知らない場所でしょう
(消失の定義を)



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