紫の舌は素敵だった

目指すは遠く異国の地。
多少の疲れを感じつつも笑みを絶やさないようにときつく自分に言い聞かせる。
理由はとても単純で、私が生きているから。

今、この瞬間を、確かに生きているからだ。

そして生きていれば叫ぶ事もある。
勇敢にも前へと出て勇ましい事を口にするアラジンの姿に焦燥を感じた。

「モルさん!おねいさん!ここは僕に任せて下がってるんだよ!」
彼に続くみたいに私に下がるよう伝えながらモルジアナが構えるがその二人の顔を覆った。
熱くなる頬ときっと情けないであろう顔をしていることはもうどうしようもない。

「子どもの前でなんて格好をしているんですか!早く服を着てください!」
裏返った私の叫び声はとても勇気あるものだった、と言ってほしい。

盗賊団との一件が済んで、惜しみながらもキャラバンの人達と別れた。
私とモルジアナ、そしてアラジンを含めた三人は各々徒歩で進むべき道を行くという訳だ。
お互い、途中までは同じ道だから支えあっていきましょうということがあったのはいいとして。

まさかこんな所で全裸の男性と会うことになろうとは。

「ところで、なぁ、お嬢さん、どうして俺の方をみてくれないんだ」
「自分の胸に手を当ててよく考えていただきたいです」
アラジンの服を一式借りた彼の姿は、というより彼の姿も直視することがどうもできなかった。
成人した男性がまだ幼い少年の服を借りる、ということは当然サイズなんてあわない。
葉っぱ一枚のほぼ全裸という姿から彼は何も変わってない訳だ。
じっと私を見つめる彼の視線を感じつつ私はどうしても彼を見ることができなかった。

幾度か陽が昇って沈んだ。
そして、私の目的地についた。
貿易で栄えた小さな国。海が近い事もあって港も所有している。

いつだったか見かけたことのあるその姿とは似ても似つかなかった。
随分と寂れ、廃れた国へと姿を変えていた。
何の気なしにどうしてかと町の人達に聞けばバルバッドが関係しているそうだ。
こんなに小さな国でも周りの国と関わり合いなしにはやっていけないのをひしひしと感じた。
じくりと胸が痛むのを感じて言いようのない苦しさが襲ってくるけれど、私がいるべきはここではないと。
そう言い聞かせて私の目的地にまで付き合ってくれたアラジン達と向き直った。

「船は出ているみたいだから、私はここでお別れね。ここまで来てくれてありがとう」
旅路を気をつけるように伝えて、もう一人ほぼ全裸の男の人には服を買うように言っておいた。
ははは、と笑われてしまったが決して笑いごとではないし仮にも女性がいるというのにその格好でいられる神経がわからない訳だが。

「シャハラさん」
船が出る前にと色々買い足していると不意にモルジアナが私を呼んだ。
アラジンともう一人の姿は見えないからどこかで休んでいるのだろう。
振り返れば彼女は私を見上げていて、その姿はありふれたただの少女のようだった。

「モルジアナ、最後まで付き合えなくてごめんなさい。気をつけていってね、貴方なら大丈夫よ」
男の人にも襲われないよう気をつけて、と強調して言いながら彼女の細い肩を抱く。
頷いた彼女はほっそりとした少女らしい小さな手を私の手に重ねた。

「今まで、本当に、ありがとうございました」
泣きそうな声だったように聞こえた。
語りたいことはまだあった。彼女もあったと思う。
それでもまたきっと会えると信じて笑って見せた。

そして割と呆気なく、あっという間に、私の彼らとのちょっとした旅は終わりを告げた訳だ。
これから私は煌帝国に帰る。練紅炎のいるあの地に。

「声ばかりが美しい奴」
だって何を言っているかわからないから。
(付着する音)

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