03

「黄文、今日は何をしているの」
思い返すとどうも彼女は自分に構ってくることが多い気がしてならない。
というのはただの自意識過剰である。
彼女が用事があるのは決して自分ではなく自分の主であって彼女の妹にあたる紅玉姫なのだ。
という訳で目的であろう姫君はきっと自室にいるであろう旨を伝える。
紅香は納得したように笑顔で頷くも自分から離れる素振りはなかった。
これは何か自分に用事があるのでは。だとしたら先程の案内は失礼にあたっただろうか。
なんて事に一瞬頭を悩ませるもすぐに気を取り直して何か用事があるのかと問いかける。

「用事がなくては好きな人に声をかけるのもいけないの」
どうも答えとしてはずれてる気がしてならないがそれが彼女の答えらしい。
一瞬思考が追いつかず動きを止めて思わず相手をじっと見つめてしまった。
見る見るうちに顔を赤くした彼女はさっと服の裾で覆い隠してしまう。
それからすぐに失礼すると言ってその場を早足で立ち去っていった。

何と感じるのが正しいのか皆目見当もつかないがふと気づく。
ああ、そうだ。自分は債務の途中であったと。
こんな廊下でぼんやりと立ち尽くしている場合ではないのだ。

その後彼女の名前を聞く度動揺してしまうくらいには意識しているらしい。

「紅香姫、一体どこに行ってたんですか!何か一言くらい、」
「そう、聞いて!私つい言ってしまったの!」
「どこにですか!まさか勝手に町へ降りた訳では、」
「好きだと言ってしまったわ!黄文に!」
「す、え、待ってください…誰に何が、こう、え?」
「紅玉の従者の夏黄文よ!ああ、まだ伝えるつもりではなかったのに!」
「わ、かりますけど…姫君の想い人って、誰、なに、それ…?」

盛大なくしゃみをして主に心配されたのが昼過ぎ頃。

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自分の主が嫁ぎに行くとき今まで見せた事のないような表情で俺にだけぽつりぽつりともらした。
実は故郷に好きな人がいる、と。結ばれることがないとわかってはいる。
だけどせめて好きだとくらい伝えてくれば良かった。
眉を下げて微笑んでいたもののきっと泣きたかったに違いないだろう。

有名な武家の出身であるにも関わらず名前負けしている自分は情けなかった。
他者の蔑むような視線や優秀な家族と比べられては泣いていた。
そんな自分に笑顔で優しく接してくれた主である紅香姫には感謝している。
どんな環境になろうとも自分は彼女の傍で精一杯できることをするしかないんだろう。
我儘には付き合ってやるし、主が健やかに穏やかに幸せに暮らす為なら無茶もしよう。
それで想い人を忘れることができるなら安いものだと思ったから。

そんな自分の心意気は幸か不幸か無駄になった。
第一皇子である紅炎様が自ら指揮を取り、属国となった嫁ぎ先から主は呼び戻されたからだ。
再び彼女の想い人もいる故郷である煌へと多少の条件はあるものの戻ってくることになった。
ほっと安心したような嬉しそうな主の笑顔を見てこちらも良かったとそう思った。

彼女が皇女である限りその好いた相手とは結ばれないかもしれない。
だけど想いを伝えて仲睦まじく過ごすことくらい許されるだろう。許してあげてほしい。
自分はできる限りそれを見守ってやりたいと思った。思っていた。思わない。
今日、彼女の想い人が明らかになったただ今を持ってそんな思いは捨てることにする。
とにかく、自分は決してあんな成り上がりの卑しい、何か、貧乏人、というか何か、とりあえずあんな特徴的な鼻の男に姫君を汚されるのを黙ってみている訳にはいかないのだ。

「夏黄文!武器を取れ、決闘を申し込む!」

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