film review

● プリデスティネーション
バーテンダー ジョンの元に、かつてジェーンと言う名前の女性だった男性が現れる。男性は天涯孤独で愛した男にも見捨てられ、念願の仕事に就くことも叶わず、子供をさらわれて今はしがない文筆家で生計を立てているのだという。ジョンはこの男の半生を聞くや、バイオリンのケースを携え、男性の人生をめちゃくちゃにした男を殺しに行こうと、一緒に過去へとタイムスリップすることに。かつてジェーンだった男性の現在の名はジョン、と言うのだそうだ…。

なんて孤独な話だろう。(作中で表すには十分な代名詞だと改めて強く感じるが、)彼は自分が存在せねば、自分が生まれることがなかったのである。両親は男と女ではなく、男であり女であった自分であり、ジェーンでありジョンなのである。1次関数のグラフにおいて、定数の増えるごとに結果の値が増えるのと同様に、生まれうるはずのない時空の小さなゆがみから生まれたジョンという存在は、次第に力を増し、当時のアメリカに住まう人間たちの生死に関わるほど大きく膨らんでいくわけである。生まれ得るはずのない人、干渉するはずのない時間。何億分の1の確率で生まれ出でてしまった奇跡が世界中を恐怖に陥れることになろうとは。

はじめはイーサン・ホークが出てるから見たんですが。深く考えずに見られるちゃちな映画が好きなイーサン氏、なるほどデイ・ブレイカーに出演するわけですね。悪い映画ではないんですが、息を飲むような、というよりは息をするように見る映画だと思います、デイ・ブレイカーにせよ、プリデスティネーションにせよ。ちなみにもしゃもしゃしている髪の毛やひげがかわいらしかったです。

孤独な映画だといいましたが、本当に孤独です。これは終わることが分かっているような、だれかの半生を描いた映画ではありません。因果の逆転から生まれた不運な人間の輪廻が描かれています。未来の自分を生かすために、起こるはずの出来事を起こさねばならないのです。どうなるのか、選択は既になされていて、ドキュメンタリーのように追跡しつつも、宿命という糸に決して逆らうことができない、恐ろしさと孤独感で世界が閉じこもってしまうのです。

原作はハインラインという作家の作品です。読みたい。
2017/06/13 23:36

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