film review

● サウルの息子
ドイツのアウシュビッツ強制収容所でゾンダーコマンドとして強制労働に従事していたハンガリー人の男サウル。ガス室へと運ばれていく人々の衣服を剥ぎ、死体を処理し、ガス室の汚物を片付ける…。数ヶ月後には自らの死が待っていることもわかっていたが、内部の仲間や外部のレジスタンスに協力を仰ぎ脱出しようとしていた。そんなある日、独りの少年の死に際を目の当たりにする。それをサウルは自分の息子だといい、ユダヤ教の正式な弔い方で埋葬したいと言い出すが…。

サウルの悲壮感がすごい。土色の顔、幸薄そうな背の曲がり方、刻み込まれた肌のしわと、彼の絶望をよりいっそう引き立てる堀の深さ。
彼にはレジスタンスに協力する仲間が何人かいて、その者たちと共に働かされていた。仲間は脱出を夢見て目をぎらぎらさせながら働いていたが、サウルは違う。まるで時が止まっているようだった。サウルについて情報が与えられることがないため、ストーリーや境遇に感情移入しすぎることはなかったが、それ故にサウルの表情が他の人と少し違うことがかなり強調されていたと思う。
また彼は泣かなかった。息子の死に際に遭遇しても涙一つ見せなかった。仲間から「お前に息子はいなかった」と告げられているのも気になる。少年がサウルの息子だったかどうかは結局定かではないが、違うのだとすれば埋葬にこだわっていた理由がわからない。そうだとしたら仲間からそう言われていたことについて説明がつかない。
もしかしたら、仲間が「息子はいなかったと思い込め」と伝えていたのかもしれない。サウルがもとからあんなに正気のない男とは思えないし。亡くなってしまった者はよみがえらない、生きて脱出するために自分のことを考えろと言いたかったのかもしれない。

この映画を見るに当たり、ユダヤ教の習わしについて少々知る必要がある。
インターネットで拝借した知識であるが、以下のことは知っておいてほしい。
1.死者の弔いのためにラビ(ユダヤ教の聖職者)に歌を詠んで貰う、この詩をカディッシュという。レクイエムである。
2.ユダヤ教では死者を埋葬する。魂(身体?)がよみがえるために体が無くなってはいけないため。サウルが埋葬にこだわるのはこの習わしがあるためである。


なんか、こんな時代があったんだなぁ、こわいなあ、なんて思う。ヒトラーはただただ劣等感の塊で、世界に爪痕を残したかっただけ。そして自分と同じく戦争に負け、恐慌で希望を無くした、劣等感の塊だった国民を利用して「自分たちの」暴力は正義、「自分たちの」民族もまた正義だとうそぶいていただけ。こわいなぁ、そんな世界。
2017/04/20 00:31

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