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そんな聡一郎君と付き合って二ヶ月目に入った。
俺と彼とは相変わらずの付き合いをしている。恋人っぽくない、学校の先輩後輩みたいな健全な関係だ。
◇
「香月さーん」
「聡一郎君」
俺がわがまま言って、彼の学校帰りに駅で待ち合わせた。
スクバをリュックみたいに背負い、俺にひらひらと手を振る聡一郎君はまじで可愛い。緩く着崩した制服にだるだるのカーディガンとか、可愛すぎてにやける。
でもこの子、俺のこと恋愛対象としては見てないんだよな。
「じゃ、行こっか」
「はーい」
聡一郎君がにへ、と俺の顔を見て笑う。彼が好きな俺の顔を見て、可愛く笑う。
ちょっと、いやかなり寂しいものがあるけど仕方がない。とりあえず嫌がられてはないし、彼のために俺の写真撮り放題っていう約束も果たしてる。
俺は聡一郎君を自宅に誘っていた。
もう何回も一人暮らしの部屋に誘っているけど、別にやらしいことはしてない。したいけど出来ねーっつうか……うん。
とにかく俺は聡一郎君を手元に置いて、恋愛感情が育つまでじっくり待つつもりだったから手を出せずにいた。
というかちょっと前に『そういう雰囲気』を作ったら逃げられたから、傷つけないように慎重にしてる。ゲイのダチにはヘタレってからかわれたけどな。
それでもこうして二人きりの空間に来てくれる聡一郎君は、警戒心が薄いのかただの鈍感なのか、それとも俺を信用してくれてるのか。
「お邪魔しまーす」
「はいどーぞ」
聡一郎君が来るから片付けておいた部屋。一人暮らしには十分な1LDKは、聡一郎君にすごく羨ましがられた。
「何か飲む?」
「あ、俺ペットボトル持ってるんで」
「そ?」
聡一郎君は荷物を置いてさっそくソファーに座った。
俺は冷蔵庫からペットボトルのウーロン茶を取り出して聡一郎君の隣に座った。自然な仕草で彼の肩に手を回すけど、嫌がられたり離れたりしないので安心する。
「今日数学の小テストあったんだっけ?どうだった?」
「まーそこそこっす。つかテスト範囲先生が間違ってて、やってないとこ出したんですよー!チョーありえねー!」
「それって全員点もらえるんじゃねーの?」
「だったらいいんですけど、出来てるやつもいたからたぶんフツーに減点っすわ」
「あららかわいそ」
よしよし、と肩に回した手で聡一郎君を撫でてみてふと違和感を感じた。
聡一郎君が俺の顔を見ない。彼が大好物の、俺の顔を。
「……聡一郎君?」
訝しんで彼を覗き込んでみるけど、目を逸らされた。
んん?珍しいこともあるもんだな。
「どうしたの?」
「い、や……別に、なんでも……ないですっ」
「なんでもないって事ないだろ。ほら、こっち向いて?きみの大好きな顔があるよー?」
からかいながら聡一郎君の柔らかいほっぺたを両手で挟んで無理矢理顔を向けた。
俺はすごくびっくりした。だって聡一郎君真っ赤だったから。
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