6


三連休明けの火曜日、昼休みに視聴覚室へ行こうとしたら、その前に司狼が僕のクラスに来た。
心なしかその男前な顔がやつれているように見える。

「よぉ……」
「し、司狼どうした。顔色が悪いぞ」

司狼を覗き込むと彼は無言でスマホの画面を僕に見せてきた。思わずあっと声が出る。
それは着信画面で、ずらりと同じ名前が並んでいた。数時間どころか数十分おきに。女性の名前で、フルネームで登録されているが下の名前はなんとなく覚えがある。

「これは……もしかして、きみの恋人か……?」
「ああ。金曜にお前に色々話しただろ?そのあたりからこの調子になってな……」

普段、誰にも弱味を見せたがらない司狼がここまで憔悴するとは。
心配になって僕から司狼を昼食に誘い、透には視聴覚室に行けない旨をメールで送った。
人の多い場所を避けると自然と中庭に行き着いた。風は冷たいけれど日光が当たっているので、この前よりは温かい。
惣菜パンを食べながら司狼が語る事情を詳しく聞いた。

「――つまり、行き過ぎた口喧嘩のせいなんだな?」
「そういうこった。あの日の夜、改めて要求は呑めないって言ったんだが向こうが納得しなくてな。んで、言い争いになって『別れる』ってつい口走っちまったんだよ。そしたらこの有様だ」

げっそりとした様子で司狼が嘆息する。
痴話喧嘩は犬も食わぬとは言うが、友人のこんな姿を見せられては放っておけない。双方の意地の張り合いに発展しているような気もするが……。

「別れるなんて、そんな気もないことを言うもんじゃない」
「……いや、結構本気だぜ」

司狼の言葉に驚いて顔を向けた。
冗談を言っているような表情ではなかった。むしろ決意めいたものが感じられる。

「そんなに簡単に……」
「簡単じゃねえよ。ちょっと前から考えてはいたんだ。俺とあいつは合わねえなって思ってた。最近は会うのもしんどくなってきてたくらいでな」
「そ、そうだったのか」

そんな悩みを抱えていたとはまるで気が付かなかった。

「もしかしたら、そういう司狼の心の変化を敏感に察知して、彼女は同棲だとかそういうことを言い出したんじゃないか?」
「……かもな」

司狼が苦笑いを見せる。彼も薄々その事実に気付いていたのかもしれない。
自分のもとに繋ぎ留めるのに必死なのだろう。それほどまでに彼女は司狼に強い感情を抱いているのだ。
けれど、そのやり方はますます司狼を遠ざけるだけだと彼女は知っているのだろうか。それを思うと顔も知らない相手ながら憐憫の情が湧く。
すると司狼が不意に僕を真剣なまなざしで射抜いた。

「――紘人」
「なんだ?」
「悪いな、変な話聞かせちまってよ」
「あの……僕は構わないが、たいした助言もできなくてすまない」
「聞いてくれるだけでいい。正直、こんなこと他の誰にも愚痴れなくてな」

なるほど、司狼の友人は多いが誰も彼もが彼を兄貴分として頼みにしているので言い難いだろう。従姉妹である瑞葉には女性相手ということもあって、少々聞かせ難い内容だ。
その話し相手に僕を選んでくれたことは素直に嬉しいと思った。
司狼に頼るばかりの僕なのに、彼から頼られて誇らしい気持ちになる。友情とはかく云うものかと感動すらした。

放課後には、司狼が部活を終えるのを待って帰り道を共にした。
次の日の昼も同様に彼と彼女の動向を聞いたが、彼らの関係はあまりうまくない方向に流れているようだ。
司狼は完全に別れるつもりでいて、相手のほうはそれを拒否している。それにつれ彼女の連絡は頻度を増しているようだ。悪循環としか言いようがない。

そんな鬱々とした話を聞いているうちに僕も感情を引きずられ、胸が塞がれた。


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