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そんなことがあったから油断してたんだけど、先輩と前もって約束しておけばよかったのにそういうのなくても彼は俺といてくれるかも、なんて思ってたのが甘かった。

先輩もすっかり俺に打ち解けてくれてたし、意外と交友関係も狭いって知ってたからタカをくくってたのがいけなかった。


まず俺はバスケ部の模擬店の忙しさを甘く見てた。

練習試合とかで近隣の高校によく行ってたんだけど、そのときにファンを増やしちゃったみたいでえらいことになってた。

俺だけのせいじゃない。うちのバスケ部って基本的にイケメン揃いだと思う。勇大はきりっとしたクール系イケメンだし、吉住は頼り甲斐がある男前。

この二人はミニバス時代に一緒にやってたからよく連絡を取り合う仲で、「高校どこに行く?」「あー俺もそこ」とゆるい感じで一緒になった。
バスケ部自体はそんな強くないんだけど、立花先輩のプレーはかっこよくて憧れてたし、家からも近いし兄貴からの勧めもあって決めた進路。

そして入ってみたらなんだか俺らはアイドル扱いでびっくりした。別にそういうのはいいんだけど、ここまでキャーキャー言われるとちょっとどうしていいか分からない。
先輩が時々言うファンクラブってのもよくわかんないし。あるの?俺のファンクラブ。

とにかく模擬店ではあれよという間に長蛇の列。

最初は俺も店頭でフランクフルト焼いてたんだけど、女の子達が「応援してます!」「試合かっこよかったです!」「これあたしのアドなんでよかったら連絡ください!」とか
次々言ってくるもんだから、いちいち応対してられなくてすぐに交代した。

バックヤードで焼きしたり資材を出したり、時々顔出して愛想振り撒いてみたり。もう笑顔が張り付いてぴくぴく痙攣し始めた頃に、ようやく先輩が来た。

勇大に大声で呼ばれて表に顔を出したら、そこにはきらきらした王子様――じゃない、紘人先輩。
もう俺は飛びついてその手を握ってた。マジで俺の癒し。女の子の甘ったるいコロンの匂いとは違う、仄かに甘く爽やかなシャンプーの香り。

正直抱きつきたかったけど先輩が引き気味だったから必死で我慢した。
女の子が先輩の登場にキャーキャー言ってたけど、残念、先輩は俺に会いに来てくれたんだよね!

とにかく一緒に文化祭見て回る約束をしようとしたらあっけなくフラれた。先輩の予定は次の日まできっちり埋まってた。


呆然としながら店番をして、昼休みを挟んで午後を少し回った頃には本日分のフランクフルトは終了してた。


午後には俺の幼馴染みっつか腐れ縁で親友の洵也が来てくれた。
小中クラスが一緒で、高校は離れたけど毎日ってくらい連絡を取り合ってる仲で、たぶん俺のことを一番わかってるやつ。

「透、久しぶり」
「洵ちゃん来てくれたんだ〜。俺に会えなくて寂しかった?」
「寂しかった寂しかった」
「俺もよダーリン!」

そう言って笑い合う。
洵也もミニバスやってたから吉住と勇大とも顔なじみだ。中高ではバスケやめて陸上やってて、曰くチームプレイよりそっちのが合ってるらしい。

四人でぶらぶらと出し物を見て回る。どこも手が込んでて面白い。やっぱ中学とはレベルとか意気込みが全然違う。

すると、先輩センサー搭載してる俺はすぐに先輩を見つけた。
声をかけようとしたけど、先輩は一人じゃなかった。西村先輩と一緒だった。

二人並ぶ姿は悔しいけど他人がおいそれと入れる空気じゃなくて、俺は思わず不機嫌になった。
つか、西村先輩初めて近くで見たけどマジ可愛い。
派手じゃないんだけど素地が整ってて、丸い頬とか奥二重の大きい目とか厚みのある唇とか、まるで日本人形みたい。

西洋系王子様の紘人先輩と正統派大和撫子の西村先輩は二人でいるとちぐはぐに見えるけど、お互い大事に思ってるんだなってのがなんとなく伝わってくる。

本当に悔しかった。
全然敵うわけないじゃんこんなの。こんなに素敵な人が側にいて、好きにならないわけない。

俺なんか所詮男で、知り合ったのも最近の接点の薄い後輩で……そう現実をつきつけられて愕然とした。





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