縮まり離れる距離



夏休み明け、突然眼鏡をやめたあたりから先輩は変わったと思う。
なにが彼をそうさせたのは分からないけど、俺は胸中複雑だった。

眼鏡なんてないほうがいい、そう思ってたのはほんとだけど、なくなったらなくなったでその美貌が晒されて、変なヤツを吸い寄せるようになったと思う。男も女も。

ノーマルだった俺がころっと先輩に恋しちゃったくらいなんだから、他のヤツだってそうなるかもしれない。
だから余計焦って先輩を独占するような行動が増えたし、真田先輩との仲を嫉妬して俺はダサいことばっかりやってた。



転機はやっぱり文化祭のときだったと思う。

前夜祭で、一人でうろうろしてる先輩を見つけてさっそく捕まえた。
先輩は最初驚いてたけど、俺の顔を見て微笑んだ。それがすげー可愛くって俺はデレデレだった。吉住と園田、他一緒にいたクラスの友達にはキメーよってどつかれた。

でもやつらも先輩のことは知ってたし、むしろ間近で先輩を見られて俺だけじゃなくてやつらもデレデレしてた。先輩が微笑むたびに「王子パネェ」とかしつこく言ってた。

催し物は体育館でやるプログラムだったから俺たちと先輩は移動して始まるのを待ってた。

「なあ透、最初は何やんだって?」
「んー……生徒会バンド?」
「前座みたいなの?」
「先輩知ってる?」
「いや……詳しくは知らないが、司狼が出るって言ってた」
「ふーん……」

先輩の口から真田先輩の名前が出るたびに俺はイラッとした。仲良さげに呼び捨てで、つまんないヤキモチだってわかってても面白くないものは面白くない。

照明が落とされて、一瞬暗くなるとザワッとした。これから起こることの期待感に皆のドキドキが伝わってくるようだ。

俺は真田先輩へのちょっとした対抗心から隣に立っている先輩の手を軽く握った。
先輩がビクッとしたから「俺暗いの苦手なの〜」と軽く言ってみれば、先輩はそうかといってそのままにしてくれた。

先輩優しいなあ。でも隙ありすぎてちょっと心配。
先輩の手は骨ばってて結構大きいんだけど、すべすべでひんやりとしてて気持ちよかった。

ステージにライトが照らされると、ワッと盛り上がった。
生徒会長がドラム、会計がボーカルで、書記がベースとコーラス、補佐二人はギターとシンセサイザー。このギターが真田先輩だった。

曲目は邦楽のカバーを新旧織り交ぜてノリのいいやつを三曲。そりゃもう大盛り上がり。
会計の先輩がお祭男ってやつで、顔がいいとかそういうわけじゃないんだけどつかみっていうか、場を盛り上げるのがすげーうまい。ふむふむ、参考にさせてもらいますよ。
隣の先輩も楽しそうにしてた。手は握ったままだったから、興奮が直に伝わってくる。

一応秘密ってことにしてるけど、後夜祭では俺含む運動部有志でライブ&ダンスステージをやることになっている。
そのときの先輩の驚いた顔とか、楽しそうにしてる顔とかを勝手に想像してにやけた。
俺だって先輩にいいとこ見せたい。


その後、ミニライブで温まった場内は盛り上がりのうちにプログラムが進んだ。
先生方の寸劇では先輩も肩を震わせて笑っていた。可愛い。

いつの間にか手が外れてたけど、先輩はずっと俺の側にいてくれた。





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