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どうして松浦先輩はあんな寂しそうな顔をしてたんだろう。まるで人目を避けるかのように俯いて、誰とも顔を合わせずに。

俺はとにかく彼のことが気になってさっそく仮入部したばかりのバスケ部の先輩に聞いた。
ちなみにバスケ部にはもう入るつもりで春休み中に見学と面通しを済ませてあって、本入部は五月からだけどすでに先輩達とは顔馴染みだ。

「松浦ぁ〜?ああ、王子のことか」
「王子……すか?」
「そうそう。あいつ有名人だよ。なんてったってあの見た目じゃん?男も女も王子様〜つってキャーキャーしてんの」
「おれ一年のとき同クラだった。すごかったぜ、入学式んときとか」

どうやら松浦先輩は思った通り二年生らしい。
下の名前は紘人。あんな欧米人っぽいのにモロ日本名。だけどそれが余計かっこよく思えた。

「でもさー、あいつ暗いんだよなぁ。全然話弾まないしすっげえ真面目でさ、淡々としててなんかこう……分厚い壁があるんだよなー」
「なんか人嫌い?みたいな感じだよな。クールっつうか……とにかくあんま喋んないし正体フメイ?」
「へえ……そうなんすか」

あんな綺麗な人が。なにか過去にあったのかな?それとも単純に話すのが苦手な人?

「秋葉ぁ、王子には手ェ出すなよ。あいつのバックにはヤバいのがついてるから」
「ヤ、ヤバいのってなんすか?まさかヤのつく……」
「違う違う、そういうんじゃなくって、王子には真田司狼がついてんだよ」
「さなだしろう?」
「あ、まだ知らねーか?剣道部で学年首席の超イケメン。松浦と一番仲いいヤツなんだけど、コイツはもう規格外っつーか……まあ見りゃわかるよ」
「それ繋がりで剣道部は全員王子の味方だからなー、うかつに手出せないの」

その真田先輩ってのはずいぶんすごい人物らしい。俺の喉がごくりと鳴った。

「おまけに女テニもついてっからな」
「あーそうだった!西村な」
「西村……さんて、誰すか?」
「西村瑞葉。テニス部で真田と同い年の従兄妹なんだけどよ、これまた超美少女!アイドル系ってより女優系?みたいな。でも性格はサバサバっつか、男前?松浦と付き合ってるとかなんとかって噂なんだけど、本人は否定してんだよなー」
「そんでテニス部も王子様親衛隊状態。王子と仲良くなりたいって男も女もみんな蹴落とされてるってハナシじゃん。マジであの界隈どーなってんだよ」

思った以上に松浦先輩の周りはすごいことになってるみたいだ。

俺はいきなり出鼻を挫かれた気がした。
いや、別に先輩と仲良くなりたいとか、そういうわけじゃなくてただ好奇心で聞いてみただけなんだけどさ。

「まあ一時期真田とつるみ過ぎてあいつらホモじゃねーのって噂されてたけどな」
「あーあったあった。つか今でもそう思ってるヤツ多いだろ」

先輩達がギャハハと笑う。俺はその下品な笑いにムッとした。

「そんで秋葉、その王子がどーしたよ」
「や、職員室でたまたま見かけて気になったんで……」
「まあ気になる気持ちもわかるわ。あんだけのキラキラ王子っぷりならなー」
「あの根暗とダサ眼鏡がなけりゃもっと女が群がるだろうけどな」
「バカ、そんなことになったら俺たちの彼女候補がいなくなんだろーがよ」
「あ、そっか」

その後の先輩達の話は正直耳に入らなかった。

とにかく松浦先輩は遠くから愛でられる系の王子様で、クールで人を寄せ付けない孤高の人で、真田先輩っていうすげー人が友達らしい。
そして、西村先輩っていう超可愛い彼女がいる……かもしれない。

そこまで聞いたら俺の好奇心は余計に頭をもたげた。



俺はその日から松浦先輩の姿を探した。全校集会のときや、移動教室のときとか。
ある日気付いたんだけど、俺のクラスから昇降口に繋がる前庭が見える。朝練のあと教室に戻ると、登校時間ギリギリにそこを通る松浦先輩の姿がよく見えた。

毎日俯きがちにゆったりと歩いていて、でもすぐに先輩ってわかる。俺は毎朝その様子を見るのが楽しみだった。

一度でいいから話してみたいな、いつもそう思ってた。


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