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失礼しまーす、と二人で声を上げて職員室に入ると、新担任の山本先生、通称ヤマセンが手招きした。

「じゃあこれが日誌な。初日で書くこともないだろうから適当に高校生活の抱負でも書いとけ」
「えー」
「えー」

俺と新木ちゃんが同時に不満を漏らすとヤマセンは日誌を俺に押し付けてきた。

「ほら、んな声出すなよ秋葉」
「じゃー適当にやります〜」

初日からグダグダの体を見せている俺にヤマセンが苦笑していた、そのときだった。

「失礼します。高島先生はいらっしゃいますか」

凛とした声が聞こえてきた。決して声は大きくないのに不思議と響く柔らかい中低音。職員室の空気が急に変わったと思った。
なんとなしにその声の方を見て、俺は息を呑んだ。

なんというか、一言では表せないくらい、その人は綺麗な人だった。
サラサラの栗色の髪とか、真っ白な肌とか、整った顔立ちとか、とにかく美人。手足が長くてスタイル抜群。
俯きがちで黒縁のダサい大きな眼鏡をしているのにも関わらずやたらと存在感がある。

ハーフか何かかな。欧米人っぽい目鼻立ちなんだけど、どことなく東洋人の見慣れた馴染みやすさが感じられる。

俺の目はその人に釘付けになった。そして気付く、その人は男子の制服を着ていた。
男とか女とか、そういう区切りで見るのもバカバカしいくらい、俺はその人の持つ魅力に吸い寄せられた。

「日誌持って来ました」
「お、日直今日から松浦だったか」

高島先生とやらはヤマセンの隣の席で、その人――松浦さんが俺の側を通った。

ふわっと香った甘い香りとともに細くて綺麗なうなじが目に入って、俺は手に持っていた真新しい日誌を取り落とした。バサリ!と結構大きな音がしてそれが床に落ちる。

慌てて拾うと、間に挟まってたらしいプリントがするりと彼の足元に滑っていった。
彼はそれを拾うと、無言で俺に手渡してきた。でも彼は俺の顔は見ずにずっと下を向いていた。

身長は俺の方が少し高いから上から見下ろす形になったんだけど、憂いを帯びた表情とか眼鏡の奥の長い睫毛とか、ほどよく厚みのある赤い唇が何だか色っぽい。
俺はどぎまぎしながらそれを受け取った。

「ありがとうございま、す……」

彼は小さく頷いてすぐに高島先生に向き直った。
上履きのラインの色が俺とは違うから、松浦さんは上級生のようだった。先輩……先輩かー。確か緑は二年だったかな?

ぼんやりとそんなことを思いながら松浦先輩のことをちらちらと見ていたら、彼は用件を済ますとさっさとその場を去った。

まるで夢でも見ていたかのようだった。隣にいた新木ちゃんも同様だったらしく、ぼーっとしている。
ヤマセンはそんな俺たちの考えていていることはお見通しだと言わんばかりに軽く笑って、退室を促した。


廊下に出ても松浦先輩はもういなかった。




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