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団体から離れて人もまばらな広場に来ると、手すりにもたれかかった。
座るほどではないけれどちょうどいい高さだ。

「突然ごめんね、ひろ君」
「いや、いいんだ。……どうした?」
「あの私……謝りたくて」

それはおそらく文化祭でのことだろう。あれ以来瑞葉ともあまり接触がなかったから。

「何を?」
「私、ちょっと自惚れてて……。ひろ君に好かれてるって思ってたから、あんなこと言っちゃって」
「…………」
「試すようなこと言って、ごめんなさい」

本人から直接あの時のことを突きつけられて僕は動揺した。
気にしてないつもりだったが、やはり僕の心に楔として残っているようだ。

「……瑞葉のことは、好きだよ」
「でもそれって友達として、でしょ?」
「……ああ」
「私、恥ずかしい。しろちゃんにも怒られちゃった。他の男子を引き合いに出さないでちゃんと言うべきだったって。ひろ君はいつも私の我が侭を聞いてくれて、優しくて、だから何言ってもいいなんて勘違いしてたの。それだけ謝りたくて……ごめんなさい……」
「いいんだ瑞葉。きみは悪くない」

違う。僕のせいだ。はっきりしなかった僕がいけなかった。そうじゃなければ、きっとこんな風になっていなかった。

透に出会う前に自分の気持ちに決着をつけていればこうならなかった。

「ごめん、ひろ君。言わなきゃ伝わらないよね。でももう言わないよ。私、立花先輩のこと真剣に好きになれそうだから」
「うん……良かったな」

そう言うと、瑞葉は綺麗な笑顔を僕に向けた。迷わず、先に向かって歩いている、僕が好きになった瑞葉の笑顔だ。
僕もかすかに微笑んだ。

じゃあね、と瑞葉が小走りに去っていく。
彼女も自分の班と同じ場所に来てたんだな、と今更ながらに思う。

『言わなきゃ伝わらない』

その言葉は僕に突き刺さった。
僕は透に何か伝えただろうか。ちゃんと言葉にして、ぶつけただろうか。

少なくとも透は僕に好きだと伝えてきた。真意がどうであれ、あの時は真剣な瞳をしていた。僕に向き合おうとしてくれた。

僕はスマホを取り出してアドレス帳を呼び出した。
しかしかけてから気付く、今は授業中なんじゃないかと。

ところが着信は切れた。応答の文字に僕は慌ててスマホを耳にくっつける。

『……もしもし?』
「あ、その……授業中だった、よな」
『へーき。サボり中』

低く静かな透の声に僕は泣きそうになった。久しぶりに聞く彼の声。

「あの……明日、か明後日、時間取れないか?」
『明後日の日曜なら部活休みだから、いーよ』

驚いたような透の声。僕はごくりと唾を飲み込んだ。

「……じゃあ日曜に、どこか話せるところで、その……」
『えっと……良かったらうち来る?って、あっ!変な意味じゃなくて、家族全員いるし、うん……ごめん、駅前のマックとかは?』

思わず口を突いて出た提案だったらしく慌てて訂正する透がなぜかおかしかった。

「いい、お邪魔するよ」
『……マジ?』
「ああ」
『あ、じゃあ、駅前で待ち合わせしよ?昼過ぎとかどう』
「わかった。二時くらいでいいか」
『うん』

簡単な約束だけして通話を切る。
僕は緊張していた肩の力を抜いて、大きく息を吐いた。思ったより普通に喋ることができた。

僕は日曜までに腹を括らなければならない。

全てを終わらせる勇気を。






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