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そして二泊三日の修学旅行はやってきた。


透とはあれ以来一度も会っていなかった。
遠目に見ることはあったが、もともと学年も違うし部活も委員会も違う。
視聴覚室の約束がなければ彼とは所詮そういう薄っぺらい関係だ。

時々思い出したように着信やメールはあったが、僕はそれに応える勇気がなくて無視をした。
すると次第にそれも少なくなった。

飛行機に乗って現地に着くと、すぐに旅のしおり通りにスケジュールは進んだ。
結構なタイトスケジュールで一日目は倒れるように眠ってしまった。

二日目は美ら海水族館を見学した。巨大なジンベエザメの姿に橋谷たちが興奮する。僕も雄大で幻想的なその光景に見惚れた。

その日の夜は佐崎さんたちに誘われてトランプ大会をやった。
すぐに消灯時間になったが、夜はこの旅行中に誰が誰に告白しただの喧嘩してただの恋愛話になる。

部屋は三人部屋で、僕と橋谷、倉田で一緒の部屋だ。
人によっては四人部屋だったりするのでかなりゆったりとしている。

暗い部屋の中でぽつりと倉田が言った。

「つか、松浦さー……付き合ってるヤツいねーの?」
「え?」
「だってE組の西村と仲いいじゃん。てっきり付き合ってんのかと思ったんだけど」
「いや……それは……」
「バカ倉田。そういうデリケートなこと聞くんじゃねーよ」

すぐに橋谷の叱責が上がった。僕は苦笑してそれに応えた。

「……彼女とは普通の友達だ」
「あ、そーなんだ」
「なんだよ倉田、もしかして西村のこと好きなの?」
「ちょ、てか、そーゆーんじゃねーし!」
「え、当たった?ウッソ、マジかよー! なあなあ言いふらしていい?」
「本気でヤメロ!つか、ちょっと可愛いな〜って思っただけだし……」
「彼女はやめておいたほうがいい。瑞葉、彼氏がいるから」
「ええっ!?」
「マジ!?」

橋谷と倉田が同時に起き上がる気配がする。

「えっ、えっ、誰誰誰!?」
「ショックっていうよりすげー驚いたんだけど……え、マジで誰?」
「いや、それは勝手に言えない」
「じゃーさ、おれらの学年かどうかぐらい教えろよ」
「……違う」

先輩かー、となぜか勝手に決め付けて二人が同時に嘆息する。

ふと立花先輩の実直そうな精悍な顔を思い出す。本当に、二人が並ぶとお似合いだ。
橋谷と倉田がああでもないこうでもないと言い合っているのを聞きながら目を閉じる。
そうしているうちにいつの間にか眠りに落ちていった。



翌日、グループでの自由行動で僕達はおきなわワールドに来ていた。
玉泉洞を見て暗い洞窟を出ると、知らない女子二人組に声をかけられた。制服が違うから他校の生徒だろう。

「あのー……写真撮ってもいいですか?」
「ああ、わかりました。カメラ貸してください」

僕が手を出すと、女子達は頬を染めて首を振った。
シャッターを押すのを頼みに来たんじゃないのか。

「え、えと……そうじゃなくて、一緒に写ってほしいなって……」
「え?」

意味が分からなくて聞き返すと、長谷川が僕の肩を叩いて後ろに引いた。

「ごめーん、コイツそういうのダメなんだわ。わかってくれる?」

意味深な言葉に女子達がこくこくと頷いて、ごめんなさい、と頭を下げて離れていった。
僕は本当に意味が分からなくて首を傾げた。

「まっつんさ、知らないヤツのああいうの、ちゃんと断った方がいいぜ」
「写真?撮るくらいなら別に……」
「そーじゃなくて、あれ、お前と写りたいって言ってんの。もしかしたら『私の彼氏ですー』とかネットに流されたり変なことに悪用されっかもだから、気ぃつけな」
「そうか……それは困る」

今時どんなトラブルがあるか分からないから、気をつけないといけないな。

長谷川に言われた通り、その後そういう誘いが来ても断った。
口下手だから上手く断れなかったが、橋谷たちが上手にフォローしてくれて助かった。

「しっかしモテモテねー、うちの王子様は」
「もう俺ら騎士の気分だわ」
「外国人みたいな僕が制服着てるから珍しいんじゃないか?」
「やだ分かってないこの子!」

笑い合ってる橋谷たちを微笑ましく見ていると、背中をポンと叩かれた。

「あの、ちょっといいかな?」
「瑞葉……」

少し俯いて気まずそうな表情の瑞葉がそこに立っていた。

僕が橋谷たちに目配せすると、彼らは「行ってこい!」と手を振るジェスチャーを必死にしていた。
ちょっと申し訳ないと思ったが、瑞葉を伴ってその場を離れた。




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