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視聴覚室には足を向けることができなかった。
透と会うのが怖い。僕の気持ちを暴かれることをなにより恐れている。

その状態のまま一週間が過ぎた。
透からの接触もなく内心ホッとしたが、少しがっかりもした。たぶん彼にとって僕はそれだけの存在だったのだ。

今頃マナという彼女と仲良くしているに違いない。
だからこの胸の痛みも早くなくなってほしいと、痛む胸を必死で抑え込んだ。







十月に入った。

中旬には二学年最大イベントの修学旅行がある。
行き先は沖縄。文化祭以来クラスでは橋谷と倉田とよく話すようになっていたので、自由行動も彼らと組むことにした。

橋谷は僕の髪を弄ることにハマっているらしく、ワックスで固められたり櫛を複雑に通されたりと僕をおもちゃにしている。

長くないのでたいしたアレンジは出来ないようだが、日替わりで僕は色々な髪型にされる。
グループの話し合い中も僕の背後に回ってさっそく櫛を振るっている始末だ。

「つか自由行動どーするよ?」
「おれ海行きたい!海!」
「今の時期に行ってどうすんだよ。泳げねーべ」
「いいじゃん。砂浜歩くだけでも」
「男五人で砂浜散歩とかありえねー!」

机を囲んだ全員がギャハハと笑う。
自由行動は僕と橋谷と倉田の他に長谷川と三井も一緒だった。
倉田と長谷川は幼馴染みらしく普段から仲が良い。

「松浦はどっか行きたいとこないの?」
「そうだな……那覇の近くだろう?鍾乳洞とか見られないか」
「玉泉洞?全体行動の中に入ってなかったっけ……ってあれ、ない?」
「今年は美ら海水族館行くからなくなったらしーぜ」
「マジかよ。じゃあ行くしかねーじゃんおきなわワールド!」
「まあみんな同じこと考えてると思うけどなー」

橋谷が僕の髪を指で梳きながら鋭い突っ込みをいれる。
観光地など決まりきっているので考えることは誰もそう変わらないだろう。

計画を立てるという名目の雑談をしていると、クラスの女子の中心人物である佐崎さんが声をかけてきた。

「ねえ橋谷、よかったらうちらのグループと回らない?女子いたほうが楽しいっしょ」
「えーめんどくせ。俺らはヤローだけでダラダラしたいんだけど」
「いいじゃん、行こうよ」
「……って言ってるけどどーよ?」

佐崎さんのグループは女子だけで六人。併せると総勢十一名で結構な大所帯になる。

「つーかあんたたちで松浦君独り占めしないでくんない?」
「そーそー。うちのクラスの王子なんだから〜」

僕?突然話を振られて目を丸くした。
倉田が苦笑しながら手を振った。

「お前らみたいなギラギラした女豹がいたんじゃ王子様だって逃げるわ」
「なによチョー失礼じゃない?どっからどう見てもか弱いお姫様だってのー」
「お前らがオヒメサマってガラかよ!」

長谷川が大声で笑うと佐崎さんも可愛らしく頬を膨らませながら彼の頭を叩いた。

文化祭から僕は周囲から王子、王子とからかわれている。
ひどく不本意な呼び名なのでその都度やめてほしいとお願いしてるのだが、むしろアダ名として定着してしまったのでもう諦めた。

倉田と三井が頬杖をつきながらケラケラと笑った。

「とにかくー、俺らは他とつるむ気ないから!」
「じゃあ勝手についてく」
「好きにすれば?」

話は終わりとばかりに橋谷は僕の肩に顎を乗せて机の上のプリントを取り上げた。

「そんで?結局おきなわワールドでいいの?」
「いんじゃね。そこで一日つぶせそうな気がするし」
「国際通りは?土産買ってかないとおれ姉ちゃんにシメられんだけど」
「行けんじゃねーの。わかんないけど」

そのあとはグダグダになり、話し合いの時間は終了になった。





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