齟齬



翌日からは何事もなく登校出来た。

瑞葉が心配して顔を見せに来てくれたのは素直に嬉しかった。そして懸念していた未練のようなものは感じなかった。愛おしいとは思うが、それは親愛の情だと思える。

司狼も僕のことを気にかけてくれて少々鬱陶しいがその気持ちはありがたかった。

そしてどうやら僕が休んでいた間に文化祭の集計が行われたらしく、売り上げは半分を寄付、半分をお菓子を買ってクラスで分けることに決まったようだ。
ちなみに僕達のクラスは出し物の人気投票で特別賞をもらったらしい。



昼休み、社会部の二階堂にばったり会ったので一緒に昼食を食べることにした。
二階堂は学食だというのでそれに付き合うことにする。
こうして学食で食べるのも久しぶりな気がした。

とはいえ病み上がりであまり食べる気にならなかったのでおにぎりと味噌汁のセットだけ頼む。

「なんだよ松浦、それだけか?」
「ああ、あまり食欲がなくて」
「ダイエットしてる女子だってもっと食べるって」

ニコニコと笑う二階堂にささくれ立っていた心が和む。
しかし彼は眼鏡をかけた温和な見掛けに対して結構な策士だと僕は知っている。

「まあ病み上がりだもんな。……ところで」
「ん?」
「これ、知ってる?」

ニヤリ、と眼鏡の奥で二階堂が笑う。そう言いながらポケットから取り出したのは一枚の写真だった。

そこにはいつ撮られたのか、文化祭での僕の仮装した姿が写っていた。
壁にもたれかかって軽く腕と足を組み、眠っている……ように見えるがさすがに当日寝てはいないから目を瞑っているだけだ。休憩していた時だったろうか、覚えていない。
油断していたせいかかなりの間抜け面を晒している。

「なんだそれは」
「これ、女子の間でちょー出回ってる写真!人気で入手するの大変だったぜ?」
「だからどうしてきみがそんなものを持ってるんだ」
「いやー松浦に見せようと思って」

ふふふ、と笑う二階堂が不気味に思えて腰が引けた。
というかこれは隠し撮りというやつではないだろうか。
いや、思い出してみると写真部が文化祭の思い出といって校内のあちこちでパシャパシャ撮っていたような気がする。

やられた、と思って苦笑した。

「恥ずかしいから捨ててくれ」
「え、やだよ!これいくらしたと思ってんだよ!」
「金まで取ってるのか……」

呆れて二階堂を見やると、彼はおかまいなしに「他にもー」と写真をバラバラと取り出した。

校内で可愛いと言われている女子やイケメンで有名な男子の写真が次々出てくる。
二階堂のポケットは一体どうなっているんだ。
なかには瑞葉や司狼の写真もあった。どれもなかなか良く撮れている。

そして透の写真を見つけてドキリとした。
彼はこちらに向かって満面の笑顔でVサインをしていた。

「バスケ部もめっちゃ人気でさーあいつらやべーよな、イケメン揃いで」
「……そうだな」
「そういやお前後夜祭見た?運動部のゲリラライブ」
「見てないが話は聞いてる」
「文化祭のための即席バンドだったんだけど、それが終わってもまだ人気らしいぜ?ファンクラブまで出来てるとかスカウトが来たとか」
「へぇ……」

おざなりな返事をする僕に、二階堂が溜息を吐く。

「松浦キョーミねえの?秋葉とか、バスケ部と仲いいんだろ?」
「別にそういうわけじゃ……」
「だって文化祭んときバスケ部でVIP待遇だったとか噂だし、昨日だって秋葉がお前のクラスに来たんだろ?」
「……いや、聞いてないが」

それは初耳だ。
ああ、だからそれで風邪で休んでるって聞いたのか。

「なんかイマイチな反応だなー。これから秋葉狙いの女子がわんさかお前に来るかもしんねえのに」
「僕に聞かれても彼のことについてはほとんど何も知らないから」

そう言うと、二階堂がいまいち納得していない顔で下唇を突き出した。

せっかく買ったおにぎりも味噌汁も全然進まず少し口をつけただけで箸が止まる。
このときぐずぐずしていないでさっさと立ち去ればよかったのだが、後悔してももう遅い。




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