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透が目を伏せながらふぅ、と息を吐く。
「……本当に風邪だったんだね」
「?そうだが」
「仮病かと思った」
「どうして?」
透は言いにくそうにもごもごと言葉を濁らせた。
「……先輩の担任からプリント預かってきたから。はい」
「すまないな」
バッグの中から出されたそれを受け取ると、手を掴まれた。驚いて透を見ると、彼は真剣で、熱っぽい表情をしていた。
僕はさすがにまずいと思った。その視線には覚えがある。昔から晒されてきた類のものだ。
透から逃れようと手を引っ込めようとするが、逆にその手を引かれてベッドに放られた。
そのまま透に圧し掛かられる。
「……透!」
「先輩、俺、言ったよね。本気だって」
「放せ!!」
手首をシーツに縫い留められ、体重をかけられると恐怖に身が竦んだ。
僕を組み敷いている透を直視できなくて顔を背けると、首筋を舐められた。
透がぺろりと舌なめずりする。
「しょっぱい」
「透!悪ふざけなら――」
「ふざけてなんかない。本気だよ」
三日間寝込んでいたせいですっかり体力が落ち、まともに抵抗も出来なかった。
そもそもバスケ部で鍛えている透と僕とじゃ力比べは目に見えている。
「……ね、真田先輩と付き合ってんの?」
「はあ!?そんなわけ――」
「じゃあ体だけ?セフレとか、先輩、そんな人だと思わなかったな」
透が本気で何を言っているかわからなかった。
首筋に舌がつうと辿り、耳たぶを食まれた。
「やっ……いやだっ……」
せめてもの抵抗として喚くと、それもキスで封じられた。
舌を捩じ込まれる荒々しいキス。
僕の舌を絡める手管は、透がこういった行為に慣れていることを示していた。
「んんっ……は……!」
「先輩……好き……好きだよ……」
「いやだ、透……!」
「俺のものになって……先輩……」
パジャマの上から体をまさぐられる。裾の隙間から透の骨ばった手が入り込んで胸を撫でられた。揉むようにそこを執拗に撫でられる。
その動きに僕は頭のどこかが冷静になった。冷ややかで、低い声が自然に漏れた。
「……きみは、僕を女の代わりにしたいのか」
「え?」
「きみもそうなのか」
僕の言葉に透が戸惑っている。
あれほど荒っぽくしていた行為をやめて、窺うように僕を見下ろしてくる。
「帰ってくれ」
「先輩……その、俺……」
「帰れ」
命令口調で言うと、透はそっと僕の上から退いた。
「ごめん、先輩……そういうつもりじゃ、なくて……」
僕はもう透の顔を見られなかった。
顔を背けて返答しない僕に、透はもう一度ごめんと言ってベッドを降りた。
彼が荷物をまとめて家を出て行く音が遠くから聞こえる。
僕は体をぎゅっと抱いた。
肌の上に透の唇と手の感触が残っていて、震えはいつまでも止まらなかった。
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