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次の日も司狼は来てくれて、彼がいる間に軽くシャワーを浴びた。
さっぱりとすると気分も良くなった気がした。

司狼は瑞葉にも僕が臥せっていることを伝えたらしいが、おそらく僕が今彼女とは会いたくないだろうと配慮してお見舞いの言葉と品だけ持ってきてくれた。

結局熱は上がったり下がったりを繰り返し、代休明けの登校日も休むことにした。
その日は一日することもなくぼんやりとする。
さすがに寝すぎて眠れなくなっていた。かといって勉強や部屋の掃除をする気にもなれない。

そろそろ司狼は学校が終わった頃だろうか、そう思っていたら彼から着信があった。

『調子はどうだ』
「ああ、だいぶいいよ。明日は学校に行けそうだ」
『そうか、良かったな。部活終わったからまたそっちに行こうか?』
「いや……いい。悪かったな、手間かけさせて」
『馬鹿、遠慮すんなよ』

かすかに笑いながら言う司狼の表情が手に取るようにわかる。僕も少し笑った。
また明日、とお決まりの挨拶をして通話を切る。部屋の中が再びしんとした。

何か食べないと……でもだるいからこのまま寝てしまおうか。そんな風に思っていると、インターフォンが鳴った。

こんな時間に宅配便だろうか。特に荷物が届く予定はなかったと思うが。
首を傾げながら玄関モニターのボタンを押して、そして驚いた。

「……透?」
『先輩、開けて』
「いや、どうしてここ……」
『開けて』

そう言う透の表情が硬い。
僕は迷ったが玄関のドアを少し開けた。開いた途端にドアに手をかけ、強引に体を押し込んでくる透が強引なセールスか危ない職業の人に見える。

大きめのバッグを持ち不機嫌そうな顔をしている透は、そのまま家に上がりこんできた。

「ちょ、ちょっと透……!」

僕の制止も振り切りリビングに入ってしまう。その惨状に僕は恥ずかしくなった。

もともとそんなに片付いている部屋じゃないが、この三日間でさらに酷くなった。
服は脱ぎっぱなし、ゴミは本と一緒に散乱し放題、おまけに汗臭い。

さらにその部屋の住人もそれに負けず劣らずの酷い格好で、よれよれのパジャマと額には剥がれかけた熱冷却ジェルシート。シャワーも浴びてない。
しかし透は無言で荷物を下ろすと、早速部屋を掃除し始めた。

「透……」
「いいから黙って。先輩はそこに座ってて」

その迫力に負け、ソファーに小さくなって腰掛ける。
部屋はみるみるうちに綺麗になった。その手際のよさに感心する。挙げ句、洗濯機まで回し始めてしまった。

洗濯が終わるまでの間に透が持ってきた大荷物を広げた。それは食材で、勝手にキッチンに行き冷蔵庫を覗いて調味料を確認していた。

お母さん。お母さんだ。

透はありえないほどの家事力を発揮し、ついに料理を始めてしまった。
材料はあらかじめ切ってきてタッパーに入れてきたらしい。あの大きいバッグはそのためのものだった。

料理を作るのが得意だとは聞いていたが、本当に手馴れていて手つきが鮮やかだ。とても年の近い男子高校生とは思えない。僕は一人暮らしをしているがほとんど家事は出来ない。

ぼうっと見惚れてると、あっという間に出来てしまった。
テーブルの上に置かれたのはうどんだった。出汁の香りが食欲をそそる。

「食べて」
「あ、ああ……うん」

箸を持たされて口に運ぶ。卵の入ったうどんは優しい味がした。ものすごく美味しい。
一口食べてみれば腹が空いていたことを体が思い出し、夢中になってうどんをすすった。腹に麺がたまると体が急速に温まった。

食べている間、透は僕のことをじっと見つめていた。
その視線から逃れるように僕はうどんに集中した。

「……ごちそうさま」
「どういたしまして」
「あの……ありがとう」

箸を置いてそう言うと、ようやく透が少し口元を緩めた。

「透……どうして僕の家を知ってたんだ?」
「今日先輩が風邪で休んだって聞いて、先輩のクラスの担任に聞いた」
「……はぁ」

個人情報をそんなに簡単に教えていいのだろうか。
いや、男子が女子の家に押しかけるわけではないし、透のことだからその抜群のコミュニケーション能力で聞き出したのかもしれない。

話しながら透にペットボトルの水を差し出され、僕は風邪薬を飲んだ。





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