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次の日、見事に風邪を引いていた。

文化祭のあと二日間は休日なので助かったが、濡れたまま裸で寝てしまったのはまずかった。熱が出て余計に服を着づらい。
朝から唸っていると、司狼から電話がかかってきた。

「もしもし……」
『紘人どうした?声おかしいぞ』
「風邪で……」
『おい、本当か!?今からそっちにいく、待ってろ』

通話がぶつりと切られて、僕はスマホを持った手を投げ出した。

司狼は本当にすぐに来てくれたが起き上がれずにしばらくぐずぐずしていた。
上掛けを全身に巻きつけてなんとか玄関まで行って鍵を開ける。司狼は僕の姿を見てひどく驚いていた。

「おいなんでそんなカッコなんだよ!?この馬鹿野郎!」
「着替えるのが……面倒で……」
「そんでそのまま寝たってのか!?おい紘人!……ったくしょうがねえな……」

舌打ちして簀巻き状態の僕をひょいと担ぎ上げ、司狼はそのままベッドに運んでくれた。
荷物を置いてクローゼットを漁る司狼をぼんやり見ていると、また着信があった。
出たくなかったが朦朧としながらも一応出た。

「もしもし……」
『先輩?俺だけど』
「ん……」

透だった。今は彼と会話する気力もない。
事情を説明して切ろうとすると、司狼が大声を張り上げながらクローゼットから出してきた服を放り投げてきた。

「おい紘人!とりあえずこの辺の服適当に着とけ!」
「ん……」
「できないなら俺がやってやるがどうする!」
「できる……」
「せめてパンツぐらい穿いとけよ!」

もそもそとベッドに放られた服の中から下着を探した。ベッドの中でとりあえずそれを穿く。
シャツを羽織ってボタンを一つ二つ留めたが、それ以上は面倒で横になっていたらうつらうつらとした。

『先輩』

透の声が聞こえてきた気がしたが、僕は意識を手放した。



目を覚ますと、部屋は真っ暗だった。
テーブルの上を見るとゼリー飲料とスポーツドリンク、風邪薬、そして「用事があるから帰るがまた来る」というメモが置いてあった。

時間は夜の七時。ずいぶん眠っていたらしい。

気がつけば僕はきちんと服を着ていて、額には熱さましのジェルシートが貼られていた。
とりあえず司狼に一報を入れようと思った。

「……もしもし、司狼?」
『紘人大丈夫か?今またそっちに向かってるんだけど、ほしいものはあるか?』
「いや、大丈夫だ。すまなかったな、ありがとう。助かったよ」
『なら良かった。熱高かったから病院に連れてこうかとも思ったんだが二時間くらいでだんだん下がってきたからな』
「二時間!?そんなにいてくれたのか……」
『いたのは昼過ぎくらいまでだけどな。ま、別にいいさ。むしろ一人にしちまって悪かったな』
「いや、いいんだ。朝よりはだいぶいいから」

まだ熱でフラフラしてるが意識ははっきりしている。
それにしても喉にきたようで見事なガラガラ声だ。

通話を切ると、いくらもしないうちに司狼がやってきた。

司狼はおばさんに僕の分のご飯を作ってもらったらしく、それを持ってきてくれた。
さすがにおかゆはレトルトだったが、おでんとフルーツの缶詰とアイスは火照った体にはありがたい。箸をつけるとほろりと溶ける大根は絶品だが、少ししか食べられなかった。

残りは明日にでも食べろよ、と言われてタッパーのまま冷蔵庫にしまわれる。
薬を飲んだあとに着替えを手伝ってもらってベッドに寝かせられると、また眠気が襲ってきた。

「……司狼」
「なんだ」
「ありがとう……」

そう言うと、司狼は汗でべとべとの僕の頭を撫でた。

「また明日も来る」
「ん……」

病気になると人は弱気になる。司狼の優しさが沁みた。

司狼が家に鍵をかけ、それをドアポストに放り込んでいってくれたのを確認して、僕はまた夢の世界に溺れていった。





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