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一度はじめてしまったら心と体の飢えを満たす行為に没頭してしまい、この日は他に何もできなかった。

その週の土曜日、透が午後に部活があるというので学校に行き、少しだけ見学をした。
部活後に彼と合流したら、足を伸ばしてツリーを調達しにいった。
訪れたのは例のディスカウントストアだ。店内は、以前コンドームを買いにきたときよりもクリスマス色が濃くなっていた。
土曜だからか客も多く、どの売り場も賑わっている。その波に紛れて目当てのものを探した。
そっけないほど素朴なヌードツリー。部屋に置くのにちょうどいい大きさのものが手頃な価格だったので、迷わずそれに決めた。

「考えてみたら飾りが一、二個じゃ寂しいよね」

そう言ったのは透だ。
たしかに、クリスマスマーケットで見るにしても当日に飾りを大量に買い込むのはあまり現実的じゃない。
デートを楽しむことが第一目的なので、余裕をもたせたほうがいいというのは同感だ。
それに、急遽行かれなくなるといった想定外のことが起こるかもしれない――そんな懸念から、ツリーとあわせてオーナメントや室内飾りもいくつか選んだ。
バリエーション豊かなのであれもこれもと手に取ってしまった。最終的には透のセンスに任せたが。

また、売り場を移動してスキンの追加も買った。恥ずかしいことに、この前買ったばかりなのにもう少なくなったからだ。
今度は迷うことなく三個パックを手に取った透に、照れくさいような嬉しいような複雑な気持ちで耳まで熱く火照った。

それから一度帰って、買ったものを僕の家に置いたあと、ファストフード店で軽く腹ごしらえをした。
透は明日、練習試合があるから、今日はこのあと早く家に帰らないといけないのだそうだ。

「ほんとはもっと紘人とゆっくりしたいんだけどね」
「試合に備えて体調を整えるのは大事なことだろ。そういえば、そっちの見学も行っていいのか?」
「や、それが今回のは顧問の母校でさ、関係者以外は来校禁止なんだって」
「そうなのか……」

不審者の侵入を妨げるための措置なのだろう。残念だが、試合はまた別の機会に観に行こう。

「透は試合でまたレギュラーなのか?」
「スタメンのこと?んー……うん、そんな感じ」

歯切れの悪い返事をする透。
なんでも、一度は外されたのだが、今度の練習試合でメンバーの見直しを行ったのだとか。
素人判断ではあるけれど、部活のあの様子ではどう見ても透は主戦力だ。そうならないほうがかえって不自然に思える。
そしてどうやら二年部員とは完全に関係改善したわけではないらしい。なんとか折り合いをつけているといったところか。
しかし透は「ま、とにかく結果出せば黙るでしょ」と、なんとも強気な発言をした。

それにしても、こういった日常の逢瀬もいくらか慣れてきたように思う。
決して飽きたというわけではなく、気負わずに透の隣を歩ける、という意味でだ。
こういうのが付き合うということなんだ。そう実感できることが嬉しい。
初めての恋人が透だなんて、こんなに幸運なことはない。僕にはもったいないくらいだ。
そんな風にささやかな幸せを噛みしめているうちに時間は過ぎ、食べ終えたらそれぞれの家路についた。

日曜の夜には透から電話がかかってきたので試合結果を聞いた。
練習ながら白熱した闘いで、接戦の末に負けたとのことだ。やはりチームワークが問題らしい。


翌日の月曜日、いつものように昼休みに透と視聴覚室で待ち合わせした。
今日は『弁当の日』だったが、試合後ということで僕のほうからあらかじめ遠慮しておいた。
ところが食事後に、透が透明なラッピング袋を取り出した。
その中に入っているものを見て驚く。なんと菓子だ。

「ジンジャーブレッドマン?」
「うん。ツリー飾りとか家でめっちゃ調べたんだけど、これよく見るやつじゃん!って思って作ってみたんだよね。作り方は母さんから教わったんだけど」

人型のビスケットには几帳面にカラフルな模様付けまでしてある。ファニーな見た目で可愛らしい。しかも紐まで通してあった。
透のお母さんは菓子作りだけならプロ級の腕とのことなので、料理好きの透にかかればこれほどの完成度になるというわけか。

「何でもできてすごいな、きみは」
「クッキーくらい簡単だって。いろんな形でいっぱい作ったから先輩に毎日一個ずつ渡すね。んで、毎日あのツリーに飾ってよ」

透は本格的にカウントダウンするつもりらしい。
自信ありげににっこり笑いながら手渡されて、欠けてしまわないよう僕も慎重に受け取った。

「わかった。そうする」
「まぁ、味見とか言われて理子にだいぶ食われちゃったんだけどね」
「……僕も食べてみたい」

反射的にぽつりとそう零すと、透が驚きの表情を見せた。
昼食を済ませたあとなのに食い意地が張っていると思われただろうか。でも、透が作ったものなら僕だって食べてみたいんだ。

「んーと、別にいいけど甘いの大丈夫?」
「大量じゃなければ平気だ」
「じゃ、飾りとは別のやつ明日持ってくんね。つか味は期待しないでよ?形だけはそれなりにできるけど、ほんとは俺、お菓子作りすっげー苦手なんだよ」

そう謙遜してみせた透だったが、翌日の昼休みに食べさせてもらったビスケットは文句なく美味しかった。
スパイスの風味がピリッときいていて、甘さもあるがしつこくない爽やかな味だった。
ありていに言えば好みの味で、持ってきてくれた量すべてを腹におさめた。

味もさることながら、透の手作りだと思うと、ご家族といえど他の人に食べられてしまうのが惜しい、というほのかな独占欲もあった。
こんな子供じみたこと、本人にはとても言えないが――。


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