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まあこうして表情や態度に出してくれるだけまだマシか。
すると、紘人はちらりと俺を見てからわずかに拗ねたような表情をした。

「……つまらないことだから言いたくない」
「ひーろーとー。なんでもいいから、ちゃんと言ってってば」
「…………」

頑なに口を開こうとしない紘人に焦る。
時間が過ぎれば天羽君を待たせちゃうってこともあるし、なにより不穏な雰囲気のまま紘人との休日を削られることがイヤだ。

この人が俺の交友関係でここまでヘソを曲げるのは本当に珍しい。
何か嫌なことがあったとしても、なんだかんだで自分を律する術を身につけてるから。だいたい酒に逃げるみたいだけど。
紘人は、天羽君に対してよっぽど思うところがあるみたいだ。

ここでイラついてもそれこそ悪循環。
一度深呼吸して親指で紘人の滑らかな頬を撫でると、諦めたような嘆息が漏れた。

「……から……」
「んん?ごめん、よく聞こえなかった。もいっかい」
「……あの少年のキーケースが、あそこに落ちてたってことは、昨夜……彼は、きみのベッドを使ったんだ、な」
「は?」

ぼそぼそと独り言のように紘人が喋る。
耳を寄せてなんとか聞き取ったけど、つまりそこが気に入らなかったってこと?
たしかに紘人って他人に対してちょっと潔癖なところあるしね。

「んー……そういえばそうだった。えぇっと、他人が寝たベッドでエッチしようとしたのがやだった?ごめん、配慮足りなかったね」
「そ、そうじゃなくて」
「じゃ、なに」
「……そうかもしれない、が、その……透が使ってるベッドにと思うと、もやもやして……」

イマイチ要領を得ないけど、これはヤキモチの一種かな?

「あの少年は、きみのことをそういう意味で意識してるんだろう?それを思うと少し、な」
「えー、少しって感じじゃなかったけど?」
「……悪かった。大人げなくて」

素直に謝ったあと俯いちゃった紘人に、もー俺キュンキュン!なになに、俺ってすっげー愛されてない?
顔がデレっとだらしなく崩れたけど気にしない。気にしてられない。

紘人の腰を引き寄せて、弾力がある柔らかい唇にかぷりと甘く噛み付いた。
彼は突然のキスに一瞬びっくりしてたけど、すぐに応えてくれた。
そのままちょっと長めのキスをする。名残惜しげに唇を離すと、色濃くなった紘人のそれを指でなぞった。それだけの刺激で紘人の肩が敏感に震える。

「……んじゃ、さすがにもう行かなきゃ。なるべく早く帰るから、そしたらさっきの続きしよーね?」
「で、出かけるんじゃないのか」
「たまにはベッドから出ない爛れた一日ってのもいいんじゃない?」
「透……」

呆れたような顔をしつつまんざらでもなさそうな紘人。
そのあと駅まで俺を車で送ってくれたけど、やっぱり釈然としてないような、不満そうな表情を滲ませていた。

――それが暗示だったかのように、そう順調にはいかなかった。


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