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電車に乗って目的の駅で降りたあと、人の流れに逆らって1号車乗り場へと向かった。
休日だからか乗り換え線のない中途半端なこの駅でも混雑してる。
すると、間もなくホームの先のほうにぽつんと立っている天羽君の姿が見えた。やっぱり芸能活動してるだけあって、遠目で見ても華やかな存在感がある。
俺が声をかける前に、天羽君がこっちに気付いて小走りに近寄って来た。

「お待たせ天羽君。遅くなってごめん」
「大丈夫です。あの……わざわざすみませんでした」
「別にいいって」
「昨日のことといい、トオルさんって意外と面倒見いいんですね」
「意外とって、天羽君の中で俺はどんなイメージになってんの?」

笑いながら赤いキーケースを返すと、天羽君がお礼を言ったあとに小さく首を傾げた。

「……あの人はどうしたんですか?」
「あの人?あー、もしかして紘人……じゃなくて松浦さんのこと?来てないけど」
「そうなんですか」

にっこり微笑む天羽君に、何故だか薄ら寒いものを感じた。
紘人を『あの人』って呼ぶその言葉に見えない棘みたいなものがあるような気がして、少し前の紘人の嫌そうな表情を思い出した。

正直、間に挟まれてる俺はものすごく居心地悪い。だけど、天羽君に対して恋愛方面のことはきっぱりお断りしてるし、かといってバイト先の繋がりだと思うとそんなに邪険にもできない。
そもそも雑誌が違うし撮影で会うこともないわけだからこれ以上仲良くなりようもないんだけど。
なんて、心の中で言い訳めいたことを考えてたら天羽君がふと上を見上げた。

「……あっ」
「ん?」
「トオルさん、電車……」

俺が降りたあと一本電車が過ぎていったのは覚えてる。でもその次の電車を待つ乗客がざわざわしてることにようやく気付いた。
天羽君に倣ってうしろを振り返り電光掲示板を見ると『人身事故のため上下線とも運転見合わせ』の文字。マジでか。

「うわー……ついてないねぇ。天羽君は大丈夫?今日はなんか予定あんの?」
「いえ、特に。夕方からちょっと友達と会う約束があるくらいですよ。トオルさんこそ、予定あるって言ってませんでした?」
「んーそうなんだけど」

紘人とデートする時間がどんどん短くなっていく。とりあえず連絡だけはしないと。
天羽君に断りを入れて紘人に電話をかけたんだけど、間の悪いことに通話中で繋がらなかった。仕方なくメールだけ送る。
機嫌が悪い紘人と離れてると思うとどうにも落ち着かない。

天羽君を見ると、彼もデイパックから自分のスマホを取り出して素早く操作していた。しばらくして溜め息を吐きながらスマホをしまう。

「どれくらいで復旧するんでしょうね」
「どーだろ。十分くらいで戻るといいんだけど」

しかし十五分経っても復旧の文字は見られなかった。
運転見合わせに関する情報を見ようと思ってスマホを取り出したそのとき、いいタイミングで振動して紘人からの着信を告げた。


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