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ああそうだ、紘人!
飲み会行くってメールは入れておいたけど今日も普通に帰るつもりだったからまだ連絡してなかった。
ソファに座りながらスマホで紘人の番号を呼び出す。コール音はすぐに切れ、眠そうな声が聞こえた。

『……もしもし』
「あ、ごめん寝てた?」
『ん……』
「あのさ、バイトの後輩が酔いつぶれちゃって帰れないっていうから、流れで俺の部屋に泊まらせることになっちゃったんだよね」
『そうか……』
「明日昼頃にはそっちに行くから待ってて?」
『わかった……』

紘人はかなり眠そうだ。もうちょっと声聞きたかったけどあんまり長引かせるのも可哀想だと思って、そこで切った。
通話を終わらせてから顔を上げると、天羽君と目が合ってめちゃくちゃ驚いた。

「起きてたの?酔いは大丈夫?」
「はい……だいぶ」

正直ホッとした。いつかの紘人みたいにベロベロのグッダグダだとほんとに大変だから。
あの人あの時は思いっきり吐いたしなぁ。

「水飲む?あーそれとも酔い覚ましに何かほしいものある?コンビニで買ってきたげる」
「お水だけでいいです……あの、それより」
「ん?」

ミネラルウォーターをコップに注いで渡すと、天羽君が俺を見上げてきた。
ほんと目でかいなー。きらきらして宝石みたい。

「……トオルさんの、アドレス、こ、交換してもらえますか?」
「いーよ。メールとか電話もらっても反応鈍いかもだけど」

構いません、と天羽君がふんわり微笑む。
最近は紘人優先だから返事が遅いのは本当だからいいのかなー?って気はしたけど、アドレスが増える分には別に支障はない。
しまいかけたスマホを取り出して番号とアドレスを交換し、仕事用のボックスに振り分けて画面を閉じた。
やりとりが終わると天羽君は両手でグラスを持ってこくこくと水を飲んでいた。頬をピンク色に染めて、ほぅと息を吐く。うーんそうやってるとマジで女の子に見える。

「ありがとう……ございました。今日、ワガママ言っちゃってごめんなさい……」
「いーよ別に。こんなんよくあるし。つか酒飲んでるからシャワーとか浴びない方がいいよね?倒れたら困るし明日朝になったら風呂入りなよ」
「はい、すいません」
「もう電気消していい?悪いけど俺、眠くてさ」

天羽君が頷いたのでリモコンで電気を消した。ふっと一瞬暗くなるけどすぐに暗さに目が慣れた。座ってたソファーにすぐに横になる。
あー……紘人ももう寝ちゃったかな。せめてキスしてから寝たかったな。
うとうとしてると、体に布が被さる感触がした。天羽君がタオルケットをかけてくれたらしい。

「あの……ベッド占領しちゃってごめんなさい」
「ん、いーよ。俺そんな飲んでないし、具合悪い人優先」
「よ、よかったら一緒に……」
「いやいや、一晩くらい平気だし遠慮しなくていいって」

つーか紘人以外の人と一緒に寝るのが無理です。あの温かさとか匂いに包まれて寝るのを知っちゃうともうね。
俺がそのまま目を閉じると天羽君がもそもそとベッドに戻る気配がした。

「……トオルさん」
「なに?」
「さっきの……電話、彼氏さん?ですか?」

ほらぁ、エミちゃんが変なこと言うから天羽君が突っ込んできたじゃん!
ペラペラ喋ると紘人が拗ねそうだからあんま触れてほしくないんだけどなー。

「んー……そうだけど」
「と、トオルさんって、そっちの人なんですか?ゲ、ゲイ……とか」
「そーゆーわけじゃないんだけど……まあそういうことになっちゃうのかな」

眠気も手伝っておざなりな返事になってしまう。それをどう受け取ったか、天羽君が小さく息を呑んだ音が聞こえた。

「あの……僕、も、男の人が結構好き……かな?って感じで……」
「……そういう相談だったら一郎さんに聞いた方がいいよ。俺全然詳しくないから」
「あ……やっぱり本城さんって、そうなんですか?」
「うん、そう。あの人はカミングアウトしてて別に隠してないから色々頼りになるかもね」

一郎さんは天羽君みたいな可愛い系は好みじゃなかったはず。美人系が好きだって言ってたから、紘人はストライクゾーンど真ん中だと思うし本気で危ない。
というか、どうして部屋が暗くなると告白大会みたいになっちゃうんだろうな。

……しかし天羽君はゲイなのか。つか、自分がそうかも?って悩んでるってこと?マジで俺はそっちの世界のことはよく分からないからなぁ。
男は紘人しか好きになったことがないし、それ以外はどんなにイケメンでも綺麗だったとしても無理だ。

「トオルさんって……」
「うん?」
「や、優しいですよね。それにすごく、カッコいいし……」
「えーありがとー。でも俺に惚れちゃダメよん。可愛い恋人がいるからねー。俺、彼氏にメロメロなの」

笑いながら言ってみると、天羽君も小さく笑った。
釘刺し成功かな?一応、自分に向けられる好意にそこまで鈍くないんでね。
紘人の場合は完全にわからなかったけど、結構前から好きでいてくれたみたい。気付いてたらもっと上手く恋人になれてたかな、とは思う。今更だけど。

「トオルさん……」
「ん……」
「その……おやすみなさい」
「おやすみ」

そしてようやく沈黙が訪れた。
天羽君に襲われたらどうしよう?とかちょっと思ったけど、もう眠気が限界だった。


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