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そんな感じで立ち話してたら、俺の先輩であり悪友でもある一郎さんがさっそく少年を目敏く見つけて近寄ってきた。

「お、その子誰?かわいーじゃん?」
「HiMMelの子だって。今日見学」
「ふぅん、後輩君か。いいねぇ初々しくて」
「あ、は、初めまして!僕、天羽瑠佳っていいます。えっと、本城さんですよね?いつもSOnnE見てます!」
「おっ、ちゃんとチェックしてるのか、偉い偉い!あもうって天の羽って書くやつ?しかもルカねえ……天使の羽の聖人なんて、こんな可愛らしい子、神様の方が夢中になっちまうな?」

さっそく口説き始めるイタリア男に驚いて目を瞠る天羽君。俺は苦笑しながら少年の肩に手をかけて一郎さんから遠ざけた。
そういえば俺も少年の名前初めて聞いたな。

「天羽君、この人の話聞かなくていいから。エミちゃーん、こんな新人君まで毒牙にかけようとして、マジでユキさんに言いますよ?」
「言いつける手段もないくせに、その脅しは効かないぜ」
「あ、俺、ユキさんのアドレス知ってるんで」
「マジで!?えっ、いつの間に!?」
「ユキさんの方から教えてくれたんすよ。一郎さんが悪さしたらすぐ連絡くれって」
「それ、ユキオがお前のアドレスゲットするための口実じゃね?」

怖いこと言わないでマジで。ユキさん、触れたら切れそうな迫力美人な上かなりの毒舌だから内心恐れてるんですって。
一郎さんと話してると天羽君の視線をまた感じた。そのキラキラしたおっきい目で見つめられると穴が開きそうな気がするんですけど。

「ん、なに?」
「えっと……なんでもないです……」
「ルカ君、トオルならやめとけ。こいつ、超美人の彼氏いるから」
「は?えっ!?」

一郎さんに言われて天羽君がぽわんと赤面する。
いや、何さらっと彼氏持ちとか言ってくれちゃってんの?まあもう仲間内でほとんど知られてるけどね……。

「ちょっと何言ってんですか……ほら、天羽君ドン引きですよ?」
「俺は前途ある美少年がトオルみたいなのに引っかからないよう、あえて忠告をだな」

どうも一郎さんと話してると恋バナっつーかシモに行くからやばいな。見た目を裏切らない純情っぽい天羽君が困ってる。
そろそろ切り上げるか、と思ったところでちょうど撮影進行の招集がかかった。



その後の撮影は順調に進み、今日の分は無事に終わった。
天羽君も礼儀正しく見学してて、スタッフさんに好印象を抱かれたみたいだ。モデル仲間にも弟分ってことで可愛がられ、その日の打ち上げに誘われてた。
俺は仕事終わったらもう帰ろうと思ったんだけど一郎さんに引き止められ、ついでに天羽君にまで「トオルさんが来ないなら帰ります」というよく分からない脅迫までされて結局参加することになった。
とまあ、そこまでは良かった。良かったんだけど――。

「……誰だよ未成年に酒飲ませたヤツは!?」

俺の肩にはぐったりともたれかかる天羽君。
打ち上げ当初、座った席は離れてたはずがいつの間にか天羽君が隣に来てて上機嫌で色々話しかけられた。
俺も後輩ってことで先輩風を吹かせながらその話に乗ってたんだけど、途中から様子がおかしいことに気付いて……。
天羽君が持ってるグラスを取り上げて口を付けたら、焼酎のコーラ割りだった。ジュースと同じグラスだから気付かなかった。
飲み口があっさりしてるからジュース感覚でどんどん飲めちゃうんだよね。俺も未成年の頃これで潰れたことがある。

連中はもう出来上がってて「いいじゃんいいじゃん」「俺はそれくらいの年でもうバーに通ってた」だの駄目な大人自慢が始まった。
そしたら途中まで上機嫌だった天羽君が突然顔を青くしてぐったりとし始めた。
仕方なく隣にいた俺が天羽君を介抱するハメに。まあこんなのはだいたいいつものことなんだけどさぁ。

先輩としてきっちり家まで送り届けようとしたら、当然のように実家だという。未成年に酒を飲ませて実家に送るのは――すごくまずい。
俺が怒られて謝ればいいかと諦めの境地でいたら、天羽君が帰るのは嫌だという。天羽君も親には怒られたくないらしい。
怒られるのは俺だよって言ったのに頑として首を縦に振らなかった。
しょうがない、俺の家に一晩泊まらせるしかないか。はぁ……。

「で、外泊は平気なの?」
「仕事の先輩の家って言えば、平気です……」

女の子ってわけじゃないし大丈夫なのかな?
俺のマンションに連れて来てぐったりした天羽君をベッドに寝かせる。
うーんデジャヴ。紘人のときもこんなんだったなぁ。


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