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紘人が少し考え込む。やがて小さく口を開いたけれど、その語り口は重かった。

「……僕は、子供の頃から友人がいなくて……」
「うん?」

突然の衝撃告白に少し驚く。紘人は時々、違う切り口でいきなり会話を始めるからびっくりする。
たぶん思考回路がちょっと変わってるのかもしれない。そういうところも面白いと思うけど。

「僕は見た目がこんなだろう?どこへ行っても奇異の目に晒されて、おまけになかなか背が伸びなくてひ弱だったから、クラスメイトに避けられたり無視されたりで友達と呼べる人間が一人もいなくて……」

俺はなんとなくそのいじめ?の理由がわかって黙り込んだ。
だってさ、こんなに美形な子が身近にいたらバカな小学生や思春期真っ只中の中学生じゃまともに会話もできないでしょ。
女の子に人気だったろうから男の醜い嫉妬も買ってたと思うし。
たぶん近寄り難い超美少年だったんだろうなー。……あとで子供の頃の写真見せてもらおう。

「それが、高校で司狼と同じクラスになって、それであいつは僕と友達になってくれたんだ。おかげで僕も人付き合いの仕方がちょっとずつわかるようになって……初めての恋人もできたし、少しだけど友達も増えた」
「その恋人ってのが、例の婚約者さん?」
「そうだ」

少し前に婚約者さんの写真を見せてもらったけど、清楚な感じの女の子だった。亡くなったのは大学を卒業する前だって話だから、写真の彼女はたぶん俺とちょうど同じくらいの歳。
ボブっぽい黒髪で全体像はおしとやかな感じだったけど、明るい笑顔が可愛かった。すごく好きだったんだろうなぁ。

「だから司狼には感謝してる。おかげで高校生活はとても楽しかったし、色々知らなかったことも教えてもらった。時々鬱陶しいけど……いい奴なんだ」
「ふーん……」

ついつい声が低くなった。俺の知らない紘人を知ってる真田に超嫉妬。俺が近くにいたら絶対友達になったのに。
内心で悶々とヤキモチ焼いてると、紘人が俺の手を優しく握ってきた。それだけで気分が上向きになっちゃうあたり、俺の紘人好きは重症。なにもうこの人可愛い!

「でも相変わらず人付き合いは下手で自信がないから、そういうのもあって、その……透が僕に初対面から普通の友人みたいに接してくれて嬉しかった」
「んーモデル仲間にも外国の血が混じってる人なんてざらにいるし、ほら、覚えてる?一郎さんとか。だからそういう意味では慣れてるかな?酔っ払いの介抱するのもしょっちゅうだし」
「それを言われると……本当にいたたまれないが」

困ったような顔をする紘人。出会ったあの時のことは紘人にとって恥ずべき大失態らしい。それがなかったら会ってすらなかったのかもしれないのに。
もしもあの時この人に出会ってなかったら俺はどうしてたのかな。
単位を落とさない程度に適当に大学行って、新しい彼女作って、サークルの旅行先でバカ騒ぎして――そんな、ありえそうな事柄をシミュレーションしてみたけど、全然つまんない生活。
紘人といるからといって、すごい事件があったり刺激的な毎日ってわけじゃない。でも、この満たされてる感じは今までなかったものだ。

「……あー……」
「どうした?」
「どーしよ、俺、あんたのことすげー好き」

重ねられた紘人の手を握り返す。この人の手はいつもひんやりとしてる。少し火照った俺にはその冷たさが気持ちいい。

「あの……ありがとう」
「え、なんでお礼?」
「嬉しいから」

夜空に向けていた視線を隣に移す。紘人ははにかんだ笑みを浮かべていて、それを見たら、逆に俺の笑顔が引っ込んでしまった。
紘人を引き寄せて軽く唇を掠める。

「と、透……」

突然のキスに戸惑いつつも拒むような素振りを見せなかったから、今度はしっかりと唇を合わせた。


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