6


紘人の家に帰ってから夕飯の仕込みをし、昼間驚かせちゃったお詫びも兼ねて料理の腕を振るっていたら、紘人が珍しく早めに仕事から帰って来た。
夕飯を食べたあと、キッチンの片づけをしている間に紘人が風呂に入る。その次に俺がシャワーを浴びる。それが一緒に生活をしている間に出来た習慣。

そして寝る前に、俺はベランダのウッドデッキで一本だけ煙草を吸う。
小上がり状になっている三畳ほどのステージに腰掛け、煙を吐きながら空を見上げる。くすんだ夜空は星が見えない。けれど今夜の月は大きく見えた。

「――透」
「ん?あ、何、どしたの?」

サッシを開けて紘人がベランダに入ってきた。いつも俺がここで煙草を吸ってる間、あんまり来たりしないんだけど。
俺の隣に紘人が座る。部屋着を着て、風呂上りで少し髪が湿っている様は昼間の隙のないスーツ姿とは全然違う。

「いや……別になんでもない」
「そ?」

吸いかけの煙草に再び口をつける。そのまま無言で二人して空を見上げた。
こうして何をするでもなく黙っている時間も好きだ。紘人とは沈黙していても穏やかな気持ちで過ごせる。
しばらくの間、風もなく蒸し暑い外気に浸っていたけれど、煙草が短くなったから傍らに置いた俺専用の陶器の灰皿に押し付けた。

「そういや、明日花火大会があるんだって。こっから見えるかな?」
「ああ、見えるぞ。ちょうど向こうのあたり、毎年都合が合うときは見てるから」

紘人が遠くを指差す。
へぇ、花火見るんだ。そういうものに興味ないのかと思ってたから意外。

「紘人って明日は休みだよね?一緒に見よ」
「そうだな」
「……今日さ、博物館面白かったよ。また行こうかな」

そう言うと紘人が複雑な表情をした。

「だ、駄目だ」
「どーして?あそこ普通に楽しかったけど」
「……女性の同僚が、きみのことを気に入ってたみたいだから」
「あっれぇ、それってヤキモチですか?」

ニヤニヤしながら紘人を覗き込むと軽く小突かれた。

「じゃーさ、今度違う博物館に行こうよ。で、色々教えて。あ、そういや他施設と横のつながりってあるの?」
「いや……ないな。学芸員補としてアルバイトしていたときの顔見知りくらいはいるかもしれないが」
「ふーん?」

学芸員って職業は、正直業務内容なんか聞いてもいまいちわからない。紘人も説明し難いらしく、他人に職業を言うときは『研究員』の一言で済ませてるみたいだし。
――そういえばあの束縛親友・真田って何の仕事してるんだろう。平日昼間にここに来たりしてかなり自由人だったけど。
ちょっと気は進まなかったけど一応紘人に聞いてみた。

「ああ、司狼は社長だから」
「はあ?社長!?」
「そうだ。自分で立ち上げた会社の取締役。デザイン関係の自営業で、会社の規模としては小さいが結構うまくやってるみたいだな」

あーそうなんだ。あのアグレッシブさはそういう方面で生かされてるわけね。
紘人もそのあたりは尊敬してるらしく語る言葉が自慢げだ。紘人にしろ真田にしろ、俺とは住む世界が違うなぁ。

「つーかさ、ずっと謎だったんだけどどうして紘人はあの人と仲いいの?なんかタイプ全然違うし、言葉は悪いけどあの人に言いなりっていうか?そんな感じするんだけど」

そう言うと紘人が少しムッとした。
しまった。自分の友人を悪く言われたら気分良くないだろうってことに気付いて慌てて謝る。

「ごめん、変な意味じゃなくてさ。あいつかなり強引っぽいから紘人が我慢してるところないのかなーって心配なだけ。つか、よくあの人について愚痴ってるじゃん」

紘人は酒が入ると、やれあいつは口うるさいだの僕の都合を考えないだのと俺に愚痴る。
真田のことを知らなかった時は面倒くさい友達持ってんなーくらいにしか思わなかったけど、今にしてみればその理由もよくわかる。
あいつは紘人のことを性的に狙ってて、紘人はそういうのナシで友達付き合いを続けたかったジレンマゆえだ。


prev / next

←back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -