38日後の来訪


次の日、本当に透はすぐに帰ってきた。
昼食も食べずに帰ってきたらしく、彼が作った野菜たっぷりのパスタを一緒に食べて午後の時間を共にする。

司狼からの連絡はない。毎日朝から鳴っていた着信は今日に限って静かだ。
まあそんなに僕に構ってられるほど司狼も暇じゃないのだろう。今日は穏やかに過ごせそうだとそう油断したその時だった。
僕はリビングで本を読み、透はキッチンでジャムを手作りしている最中、僕のスマホが鳴ったのだ。
きたか、と思った。――思った通り、それはやはり司狼だった。

「……なんだ」
『やっと出たな紘人』
「用件は」
『今からお前の家に行く』
「は!?」

予想外の言葉に僕は目を瞠った。
今まで司狼がこの家に来たのは数えるほどだ。だいたい外で会うか、あいつの家に行っていたからだ。
しかし今は透がいる。まずい。とてもまずい。

「いや、駄目だ!」
『もう家の前に来てるからな』
「ちょ、おい……!」

通話は強制的に切れた。
しばし呆然とする。もう来てるだって?

「紘人さん?」

透の気遣わしげな声が聞こえる。考えている暇はない。

「透……すまない。今から僕の友人がここに来る」
「えっ、そうなの?じゃ、俺外出てようか?」

今出たところで確実に司狼と鉢合わせするだろう。むしろそっちの方が厄介な気がする。それに透を追い出すような真似はしたくなかった。
少し迷っていると、透の方から声をかけてくれた。

「あー……えっと、邪魔じゃなかったら俺ここにいていい?」
「……そうしてくれると有難い」

彼はどうして僕がして欲しいこと、言って欲しいことがわかるんだろう。いつもそうだ。だから余計離れられなくなる。
そうと決まればとさっそく来客の用意をしてくれる透。若いのに本当に気が利く青年だ。
言ったとおり司狼はすぐに来た。玄関を開けると、威圧的に僕の前に立った。
玄関に脱いである透のハイカットスニーカーを見て、司狼が不愉快そうに眉を顰める。

「……司狼、僕は駄目だと言ったが」
「いいじゃねえかよ。別に初めて来るってわけじゃないんだし」
「今、友人が来てるんだ」
「へえ、お前自分んちに誰か入れるの嫌がる癖にか?ちょうどいい、紹介してくれよ」

こうなったら司狼は絶対に引き下がらない。僕は嘆息して家に上げた。
司狼の姿を見て透が人懐っこいいつもの笑みで挨拶をする。
ところが司狼はその気持ちの良い挨拶に嘲笑で返した。あまりの無作法に僕は彼の腕を肘で小突く。そうされても全然動じてない様子なのが腹が立つ。

「す、すまない透……。こいつは僕の友人で、真田司狼。司狼、彼は秋葉透くん。僕の……その、最近出来た友人だ」

僕がさっさと紹介すると、透は挨拶のことなど気にしてないという風にまた明るい笑顔を見せた。

「さなだしろうさん?へーカッコイイ名前すね。よろしくどーぞ」
「お前か、紘人を誑かしたって奴は」
「はあ?」
「司狼!!」

さすがに黙っていられなかった。透になんてことを言うんだ。失礼にもほどがある。もう完全に頭に来た。
それなのに司狼は透を無視して僕のことを見下ろしてきた。

「なあ、何で電話出ないんだよ。心配するだろうが」
「うるさい。僕だってそんなに暇じゃないんだ」

あんなことがあって話したいと思うものか。じろりと睨んでから僕はやけくそ気味にソファーに座り込んだ。
司狼も追ってきて、わざわざ僕の隣にぴったりと座った。鬱陶しかったが距離が近いことを逆手に小声で司狼を叱責する。

「司狼、何だあの態度は」
「どうってことないだろ、あれくらい。それよりずいぶんガキなダチだな。一体どこで引っかかったんだよ」
「引っかかった?僕は透に助けてもらったんだ」
「助けて、ねえ……?どう見てもあいつ、お前を変な目で見てるじゃねえかよ」
「そんなわけあるか。それはきみの方だろ」
「愛してるからな」

とんでもないことを言い出す司狼にぎょっとした。目つきが完全におかしい。僕をやけに熱っぽく見つめている。
こんな時に本気で口説いているとわかって、思わずごくりと唾を嚥下した。


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