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「コーヒーどーぞ」

透の柔らかい声がして我に返った。僕と司狼の前にコーヒーが置かれている。
僕は縋るように透を見つめた。彼もそんな僕に気付いたのか、少し考えてから一人掛け用ソファーに腰を下ろした。
そうしたら司狼の舌打ちが聞こえたので、奴の足を思い切り踏んだ。

司狼の話し方は今日に限ってやけに挑発的で、その度に透が嫌な思いをしていないかハラハラとした。
どうしてそんなに敵のように透を見るのか訳が分からない。
しかもいかに僕と司狼が付き合いが長いか、仲が良いかということを誇張混じりに話す。透が聞いてもちっとも面白くない話題ばかりだ。
でも透はその持ち前のずば抜けたコミュニケーション能力で会話を弾ませている。すごい。僕にはとても出来ない芸当だ。口を挟む隙がない。

そんな状態で一時間も過ぎただろうか、司狼のスマホが突然鳴った。どうやら仕事の電話だったらしく、従業員に呼ばれたから帰ると言い出した。
というか仕事を放ってここまで来たのか!?司狼の行動は本当に破天荒で付いて行けない……。

あいつがいなくなってみれば、僕はすっかり疲れ果てていた。透も同様だったようでソファーに深く沈みこんでいる。

「嫌な思いをさせてすまなかった……透」
「ん? いや別にいーよ。強烈な人だねぇ。ああいう我が強いタイプも俺の周りには結構いるから慣れてるって」
「……透は友人が多いんだな」
「多い……かなぁ?別に普通だと思うけど」

なんてことないように笑う透。それは僕にとっては羨ましくもあり、少し妬ましくもあり――。
そうか、僕は妬いているんだな。
交友関係が広く、そんな彼と対等にいられる友人たちに。

僕と透は何なんだろう。友人?そう思っているのは本当は僕だけなんじゃないのか?
年も違う、彼はのびのびとした学生で、僕はせせこましい社会人。共にいる時間も合わない。

すれ違って、たぶん、すぐに破綻する関係。もう透を僕から解放したほうがいいんじゃないだろうかという考えがよぎる。
でも自分からは言い出せないから、せめて彼の寝床として利用してくれればいい。部屋だけは割と広いし、テレビも透が感動したというほど大きい。
大学にも近いみたいだし、生活に必要なものは一通り揃っているのだから。
そんな後ろ暗いことを考えていたら、透がいつもの調子で聞いてきた。

「俺、そろそろ晩飯の支度するね。リクエストは?」

僕は無性に恥ずかしくなって好きなメニューをとっさに上げた。

「……シソ巻きカツ」
「了解」

透が格好良く笑う。その笑顔に少しの間見惚れてしまった。
――透、僕はきっと、きみのことを……。

そう遠くないうちに僕ときみは離れることになる。この生活は終わるだろう。
その時が来たら、僕は一体どうするのだろう。


僕は、静かに微笑んだ。


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