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翌朝メールを見てみれば『今日遅くなりそうだから自分んちに帰るね』と昨夜のうちに透からメッセージが入っていた。
一日置いた日曜の夜、仕事から帰って風呂に入っている時に透が家に来た。

「紘人さん?風呂?」
「……ああ」
「晩メシ食べた?」
「外で食べてきた」
「そっか」

ホッとしたような透の声がドアの向こうから浴室に響く。
僕の栄養管理は透の仕事らしい。彼にそうやって世話を焼かれるのは嫌いじゃない。

僕はいつもの平常心に戻っていた。透があの夜帰って来なくて良かった。そうじゃなければ、言ってはいけないことを口走ってしまいそうだったから。
ずるずると沈んで湯に浸かる。温かくて気持ちがいい。

風呂から上がると透はソファーに寝そべっていた。
長身の体を投げ出してだらしなくしているのに、まるで雑誌の切り抜きのように格好良く、様になっている。思わず笑ってしまった。

「紘人さん」
「ん?」
「ちょっとこっち」

透に手招きされてソファーに近づく。彼は起き上がると僕を隣に座らせた。
何をするのかと思えば、僕が持ってたタオルをひったくり、透は僕の濡れた髪を丁寧に拭き始めたのだった。

「と、透……」
「んー?」

ポンポンと叩くようにタオルドライする透の手は、すごく気持ちが良かった。
そのままさせたいようにする。タオルが水を吸って重くなる頃、透が僕の肩を後ろからぎゅっと抱きしめてきた。
少し緊張して体が固くなる。司狼に抱きしめられた感覚がフラッシュバックするが、あの時のような嫌悪感はない。
強引にするのではなくて、手つきが優しいからだろうか。それとも犬がじゃれつくような可愛らしさがあるからだろうか。

透はきっと女性にもこういう風に優しくするのだろう。
帰ってこなかった金曜の夜は、サークルの誰か――女子部員と過ごしていたのだろうか。一晩、この手でこうして女性に触れて。
堪らなくなって僕は立ち上がった。透が困ったように笑う。

「紘人さん。俺、明日講義終わったらすぐ帰ってくるね」
「……僕はいないかもしれないが」
「え、どっか出かけるの?」
「そう……かもしれない」

あの金曜の夜以来、司狼からうるさいほど何度も着信があったが僕はそれを全て無視していた。
たぶん、僕が仕事休みの月曜になれば何らかのアクションがあると思っている。
おそらくまた呼び出される。僕はそれに応えなければならない。一度ちゃんと話す必要がある。ことによっては友人をやめなくてはならないだろう。
親友を失うことはすごく怖い。けれど司狼の思いを受け入れることも出来ない。
知らず考え込んでいたようで、透が僕の顔をじっと覗き込んできた。

「……なんかあった?」
「い、いや、別に」

イケメンというのは透のような青年のことを指すだろう。すっきり整った男前な顔に真っ直ぐに見つめられると胸がざわつく。
それを悟られたくなくて逃げるように書斎に入った。
まさか昔馴染みと男同士の惚れた腫れたで悩んでいるだなんて、透には絶対に知られたくない。
どうしてこんなことになっているのだろう。何も考えず、できるだけ先延ばしにしたかった。


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