4日目より先


透との付き合いはそれからも続いた。

彼は僕の話にまず肯定から入る。
「それいいね」「すごいね」と僕のちっぽけな自尊心を大いにくすぐってくれる。

司狼も瑞葉も自分の意見がはっきりとしていて上昇志向が強く、嫌なものは嫌、駄目なものは駄目、ときっぱりと言い切る性格だった。
優柔不断気味の僕はそういう彼らといるととても楽なのだけれど一方で息苦しくもある。でも透はそういうのとは全然違った。

基本的に考え方が柔軟で、順応力が高い。それは僕の優柔不断さとは違ってすごく自然に入り込んでくる。
「あーそういう考え方もあるかぁ」と一考してから「俺はやっぱこっちのが合ってるわ」と柔らかく、でもはっきりと言う姿に僕の方も優しい気持ちになった。

そして透は他人との距離が近い。
突然触れられることがあって最初こそ驚いたけど、次第にその体温が心地良く感じられるようになった。
僕が本を読んでいると肩を抱いて「なに読んでんの?」と覗き込んできたり、臆面もなく手を握ってきたり。
そのたびに僕は嫌悪ではないドキドキを感じた。


彼と会って半月くらい経ったある日、金曜の午後一緒に映画を見に行って、お決まりのように僕の自宅に来た透。
一緒に酒を飲んでいたら僕に付き合って透は深酒をしてしまった。

酔った透はとても色っぽくて、いつものさっぱりとした感じとはかけ離れていた。
透がソファーで眠りそうだったので「今日は泊まっていけばいい」と言うと彼は嬉しそうに頷いてから僕を招き寄せた。

「ありがとー大好き」

そう言って僕をぎゅうと抱きしめた透。彼の薄い唇が頬を掠めて僕は顔が熱くなった。
それから透は上機嫌でゲストルームのベッドに行き、そのまま寝てしまった。
僕はどうしていいかわからず、早鐘を打つようなこの心臓のうるささをどうにもできず、ただぼんやりとした。

翌朝、そう言ったことすら覚えてない様子の彼にホッとした。一人であれこれ悩んでいた自分が馬鹿みたいで拍子抜けしたほどだった。

それからだ、透が僕の家に入り浸るようになったのは。
そのこと自体は歓迎すべきことだったけれど、何をしても器用でお洒落な透に僕は次第に恐れるようになった。
どうして彼は僕と一緒にいてくれるんだろう。
共通の趣味もない、面白い話題があるわけでもない、家にいると不精気味で仕事以外何もしない僕。なのに透は楽しそうに僕に話しかけては家の雑事を細々とこなしてくれる。

一体どうして傍にいてくれるのか。そしていつまで一緒にいてくれるのか。それを思うと空恐ろしかった。僕はすっかり透に依存していた。
だからせめて何か返したくて、取り柄とも言えないが仕事柄得意な論文作りを手伝ったりした。
透の笑顔を見ると僕も嬉しくなって、それまで知らなかった新しい世界が開ける気がした。


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