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自宅マンションに帰ったら、借りた服をコンシェルジュに預けて至急クリーニングに出すよう手配した。
そのあとはいつ連絡が来てもいいようにスマホを常に傍らに置き、ベッドに横になったりしてその時を待った。


日がすっかり落ちて夜と呼べる時間になった頃、待望の着信が鳴った。
僕は待たせないようすぐに出て、緊張しながら応答した。……しかし着信は司狼だった。

「……なんだ司狼か」
『なんだよその言い草は。大事な親友に向かって』

親友?僕にあんなことをしておいてか、と内心で罵った。
僕は昨日、司狼の家に行った。少し珍しい酒が手に入ったというので喜んでお邪魔したのだ。
司狼の家は職場も兼ねた一軒屋だ。彼は自分で起業している社長でもあるので、一階の広間は事務所として使っていて、二階は住居スペースなのだ。
デザイナーズ建築だというその家は一見奇抜でありながら快適な居住性は保たれているという不思議な空間だ。
残業は基本的にさせないという方針の下もう社員は全員引き払っていて、僕は司狼と二人でグラスを傾けた。

酒が進むと話はやはり学生時代のことになる。

当時の僕の彼女――婚約者の瑞葉は司狼の従兄妹でもあった。僕と瑞葉のことを誰より祝福してくれたのは司狼だった。だから油断してたんだ。
突然真剣な語り口になって「瑞葉のことはもう忘れろ」と……。それは無理だと首を振ると、急に引き寄せられた。
そして、キスをされた。舌をねじ込まれる濃厚なキス。

僕はそれが嫌で仕方がなかった。だって司狼は本当に大事な友人で――僕の親友で、そんな風に考えたこともなかった。そもそも男同士でキスだなんてありえないと思った。
なんとか司狼から逃げ出して、混乱した頭のまま適当な居酒屋に飛び込んだ。安酒にすぐに悪酔いして、結局潰れてしまったのだが。

『……昨日は突然あんなことをして悪かった。謝りたいんだ』
「もういい。僕は忘れるからきみも忘れろ」
『今から出て来れないか?俺はいま麻布にいる。何度か一緒に行ったバーあるだろ?あそこだ』
「…………」
『もう何もしねえから』

諭すようにそう言われて、僕も警戒心が解けた。長い付き合いはすぐに遮断できるほど僕にとっては浅くない。
昨日の今日で飲めないと言うと、それでいい、と言われた。


暗い照明の落ち着いたバー。上等な酒を置いていることと洒落た雰囲気が人気で多くの常連客を抱える店。司狼と一緒じゃなければ来ない店だ。
僕の顔を見ると、カウンター席に座っていた司狼はグラスを持ち上げて格好良く笑った。彼の隣に座ってノンアルコールを頼む。

「なんだ、飲めないってのはマジだったのかよ」
「……二日酔いなんだ」
「お前が?珍しいな」

誰のせいだと思ってるんだ、と隣を睨むと司狼は肩を竦めた。

「昨日は本当に悪かった。ちょっと考えなしだったよな」
「……いいから忘れろ」
「それは出来ねえ相談だな」


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