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機材の不調で予定よりかなり長引いた撮影後は、いつメンで晩メシを食べに行った。
勇大のせいで「トオルに美人の彼氏ができた!」と皆に知れ渡って騒がれ、俺はもうどうにでもしてくれって気持ちで食いまくった。

いつもヘラヘラしてる俺がいつになく深刻な顔をしてたみたいで、早々にその席はお開きになり一郎さんが気を利かせて飲みに誘ってくれた。
始めこそ一郎さんへの八つ当たりをしてたけど、最終的にただのノロケになる。それを全部受け止める一郎さんマジ男前。懐が深いなぁ。

「……ってか、こんな時間ですけどユキさん怒りません?」
「へーきへーき。一緒にいるのがトオルだってわかれば怒らないって。アイツ、お前の顔好みなんだよ。可愛いって言ってた」
「マジすか。怖いこと言わないでくださいよ……」

一郎さんの恋人のユキオさんは元雑誌関係者だ。
俺は少しの期間一緒に仕事しただけなんだけど、クールビューティーって言葉がよく似合う男の人。今は同系列会社のもっと大きい規模の雑誌担当をしてる。
この一郎さんと付き合えるんだからかなり肝の据わった人だ。

「しかしまさか、お前からそんな話が出るようになるとは思わなかったわ」
「は?」
「トオルが愚痴とノロケで管を巻くような奴だと思わなかったってこと。女とっかえひっかえするわりにそういうとこ結構ドライだったじゃん?」
「そーすかね」

自分では特に意識してなかったけどそうだったのか。

「そうそう。女の子みんな可愛いですよ〜でも怒られて参っちゃいました〜って感じでヘラヘラしててさ。……んで、もうやったわけ?」
「……そりゃまあ」
「なに、あの子ノンケなんだろ?なのに受け入れてくれてるってことはスゲー愛されてるじゃん」
「そうだと思いたいけど、イマイチ実感ないんすよね……あんま好きとかなんとか言ってくれないし」

あーそうか。結局それが不満だったんだな。
付き合うことになってもなんか紘人はいつも通りっていうか、俺が仕掛けなきゃ恋人っぽい雰囲気になりもしない。
エッチのときは乱れてくれるけど好きとは言わないし、紘人からキスもしてくれないし、俺はもっと普通のときでもイチャイチャしたいつーか。
なんか俺ばっかり紘人のことが好きな気がしてたから、俺が出てる雑誌を持っててくれたのはすげー嬉しかったんだけどなぁ。
なのに理不尽なことで怒られてイラついちゃったんだ。

「お前ガキだなぁ」
「しょーがないすよ、ガキですもん」

一郎さんにやれやれって感じで頭をかき回された。

「今度あの美人さん連れて来いよ。ユキオも交えて一緒に飲もうぜ」
「乱交の趣味はないっす」
「バカか。俺だってそんな趣味ねえよ」

そもそももうフラれるかもしれないわけで……あ、涙出そう。


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