10


結局一郎さんと別れたのは深夜をかなり過ぎた時間だった。

終電はとっくになかったけど気を利かせて俺の家の近くの店を選んでくれたので、一駅くらい歩けばすぐに自宅マンションが見えた。
あー酒クサ。早くシャワー浴びてさっぱりしたい。
そのあと寝れば三時間は休めるか。どうせ講義は午前中だけだし、すぐ帰ってきて寝ればいいし。

そう思いながらマンションに帰った。ところが俺の部屋のドアの前に黒っぽい塊があった。
その不意打ちにすげービビッて思わず後ずさりしたけど、すぐにその正体がわかった。

「……紘人?」

おそるおそる声をかけると、うずくまって座り込んでる紘人はゆっくり顔を上げて俺を見た。
泣き腫らしたみたいに目も鼻も真っ赤で、髪も服もヨレヨレ。美人が台無し。なのに久々に会えた存在がこの上なく可愛く愛しく思えた。

「な、なにどうしたの?いつからここにいたの?」
「…………」

紘人はばつが悪そうな顔をしたまま答えない。ってことは結構前からいたのかもしれない。危ないなあもう!

「とりあえず入って」

焦ってそう言うと、紘人が少し考えたあとにこくりと頷いた。
玄関の鍵を開けて紘人を立ち上がらせる。うーん今度から合鍵渡さなきゃ。
――と思って、はたと気付く。もしかして紘人は別れ話をしにここに来たんじゃないのかって。だったら合鍵どころの話じゃない。
ちらっとスマホを確認したけど間の悪いことに充電切れだった。ということは俺に連絡つかなくてアポなしでここに来たってこと?

「……なんかスマホ充電切れてた。連絡してくれてたならごめん」

紘人が縋るような瞳で俺を見上げてきた。ほんと可愛い……じゃなくて、図星だったみたい。
俺はリビングの電気を付けて紘人を中に促したけど、靴も脱がずに玄関先で俯いている。

「紘人?上がって……」

紘人の様子がおかしいから近づいてみたら、突然抱きつかれた。
おわっ!危なっ……体勢崩して転ぶとこだった!
なんとか踏ん張って紘人の体を受け止めると、ますますぎゅうっと抱きしめられた。段差があるから紘人の頭がちょうど俺の胸のところにきてる。
その行動の意味がわからなくて俺は宥めるようにぽんぽんと紘人の肩を叩いた。――震えてる?

「紘人どうしたの。とりあえず家上がって」
「……透」
「ん?」

俺の胸に顔を埋めながらくぐもった声を上げる紘人。
もしかしていよいよ別れを告げられるのかという恐怖と、でも紘人の体温が気持ちよくて俺のムスコさんがちょっと元気になり始める。
……こんなときまで、俺バカじゃないの?


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