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再び車に乗り込んだ俺達は少し黙り込んだ。紘人、さっきのこと気にしてんのかな?

「あーあのさ、さっきの人、俺のモデルの先輩でエミーリオ・一郎さんっていうの。イタリア人のハーフなんだよね。明るくていい人だけど遠慮ないっつーか、うるさいのが玉に瑕でさ」
「……雑誌で見たことある顔だ」
「そーいやそうだね。んで、俺がずっと世話になってる人で――」
「透、あんなこと言って良かったのか」
「あんなこと?」
「か、彼氏とか、なんとか……」

あ、それを気にしてたわけね。

「平気、っつか、あの人ガチのゲイだからね。あ、俺はあの人の好みじゃないから口説かれたことないよ。エミちゃん、ユキオさんっていうド本命の恋人いるし」
「……!」

あっさりとそう言うと、紘人が動揺したように車が揺れた。

「変に隠すより言っちゃったほうが楽だからさ。でもあの……勝手に言ってごめん。そういうの嫌だった?」
「い、嫌じゃ……ないが……透が仕事先で肩身の狭い思いをしないかが心配だ」
「なんだそんなこと?この業界ソッチの人マジで多いよ。きっちり仕事してれば何も言われないから大丈夫」

紘人が頬を染めながらもじもじと体を揺すった。
うーん、表情から察するに嬉しいけど複雑ってとこ?

「エミちゃんああ見えても男気あるっつーか、変に言いふらしてからかうような人じゃないし、安心していいよ」
「…………」

なんとも返答しがたいようで、紘人はそれきり黙ってしまった。
ぽつぽつ会話はしたけどうまく続かなくて、微妙な沈黙のドライブはやけに長く感じた。


紘人のマンションに着くと、もう夜だった。夏だから日は長いけどすぐに真っ暗になりそう。
駐車場に停車してから車を降りようとすると、「あっ」と紘人が声を上げた。

「ん?どしたの?」
「……今日、夕飯にきみを連れて行こうと思っていた店があって……」
「えーそうなの?どんな店?」
「ワイン飲み放題の店で……」
「やだ〜俺を酔い潰してどーする気?えっちー!」

自分の体を抱きながら軽く言ってみたら紘人がムッとした。
え、怒っちゃった?

「……なんかさ、紘人おかしいよ?言いたいことあるなら言ってくんね?黙ってたらわかんない」
「別に言いたいことなんか……」
「あるでしょ。ずっと雰囲気悪いもん」

そんな態度取られ続けたら俺だって面白くない。理由も言わずに一方的に責められてる感じはすごくいやだ。
だからつい矢継ぎ早に紘人を質問責めにした。

「一郎さんのこと?何か気に障った?俺が勝手にカミングアウトしたのやっぱり怒ってる?」
「そ、そうじゃない……」

紘人の手を握ってじっと見つめる。そうすると紘人もおずおずと俺の目を見てくれた。

「……あの、……透が、女癖悪いって……」
「え?」

そういやそんなこと言ってたなあの人。ったく、つくづくタチが悪い人だ。

「なにそれ、そんなこと気にしてたの?」
「そんなことってことはないだろう!」
「そりゃまあ……適当に遊んでた時期はあったけどさ。でもそれって紘人に会う前のことだし、今は全然そんな気ないし」
「…………」
「過去のことまで気にするタイプ?」

紘人が顔を曇らせる。すぐに否定してくれると思っただけに、その反応にはかなりがっかりした。
そしてちょっと腹が立った。今日が楽しかっただけに一層イラつく。
俺という存在を拒否された気がして弾かれるように紘人から手を離した。

「そういう俺とはやっぱ付き合えない?軽蔑する?」
「い、いや……でも、その……」
「……なんかさ、今日はこれでバイバイしとこっか。紘人あんま楽しくなさそうだし」
「透!」

俺は車から降りて、引き止めるように叫んだ紘人にドアを閉める前に一言言った。

「考えがまとまったら連絡して。続けるか、やめるか」
「違う!透!僕は――」

最後まで聞かずに車のドアを閉めた。


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